Vol.23 No.4
【特 集】 ダイオキシン問題の現状と展望


ダイオキシンとは何か
上路 雅子
 ダイオキシン類とは,75種のPCDDs,135種のPCDFsの総称であり(毒性評価対象の異性体数:PCDDs 7,PCDFs 10),さらに12種のCo-PCBが加えられる。 いずれの異性体も水溶解度は低く難分解性であるため,環境や生体中で長期間安定に存在する。発生源は,各種焼却施設,金属精錬,自動車排ガス, たばこの煙等無限であり,その発生源によって特徴的な異性体パターンを示す。毒性は化学合成化合物で最も高いとされ,皮膚の塩素ざ瘡,各種器官での発ガン, 生殖毒性等多種多様である。2000年1月,「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行されたことから大幅な排出削減が期待される。
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農用地と農作物中のダイオキシン
西尾 健 ・ 米田 太一
 農作物中のダイオキシン類は,一般に低濃度であり,土壌中のダイオキシン類の根からの吸収移行よりは,大気中のダイオキシン類の影響がより大きいものと考えられているが, わが国における調査は極めて少ない。このため,平成10年度に全国調査を実施したところ,52地区の農用地土壌中の平均濃度は28pg-TEQ/g,6種の農作物中の平均濃度は0.026pg-TEQ/gであり, 水稲では土壌中ダイオキシン類濃度と玄米中濃度の間に相関関係は認められなかった。
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食品におけるダイオキシン汚染の実態と健康影響
豊田 正武
 厚生省が実施している最近2〜3年間の個別食品中ダイオキシン汚染の実態調査結果,及びトータルダイエット試料の分析による22年前からの1日摂取量の経年変化の結果を報告し, 健康影響との関連性を評価した。植物性食品では葉菜類のホウレン草,小松菜でほかの植物性食品より濃度が高い。動物性食品では魚類のスズキ, アナゴでほかの魚より高濃度で,肉類では牛肉でほかの肉より高濃度である。関西地区からの試料によるダイオキシンの1日総摂取量は経年的に明らかに減少し, 1977年度の8.2pgTEQ/kgbw/日から1998年度の2.7pgTEQ/kgbw/日と1/3に低下していた。
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ダイオキシンの生物的分解技術の現状と展望
西田 篤實
 ダイオキシン類は自然界では徐々に消失しているが,その分解状況は場所により非常に異なっている。光による分解が主体とされるが,各種土壌や湖沼, 河川底質中にはダイオキシン類を分解する能力を持つ微生物が存在することが明らかになった。好気的バクテリアは塩素数の少ないものはよく分解し, 嫌気的バクテリアはゆっくりと塩素を脱離させて無毒化している。糸状菌では木材中の高分子芳香族化合物であるリグニンを分解する白色腐朽菌に分解力の強いものが見出されている。 ダイオキシン処理にはこれら微生物を適宜汚染地に投入して浄化する方法やコンポストなどの有機物を加えて現存の微生物を活性化させる方法がある。
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超臨界水を用いるダイオキシンの物理化学的分解技術
佐古 猛・菅田 孟
 大きな分解力を持つ超臨界水+酸化剤を用いると,ダイオキシンや農薬等の難分解性有機塩素化合物を短時間に完全分解できる。通常の分解条件は, 400〜600℃,25〜30MPa,反応時間15〜30分であり,生成物として無機安定化した二酸化炭素,水,塩化水素等が得られる。しかしながら反応条件が不十分な場合には, 安定な中間体のフェノールが生成するので注意を要する。現在,国のプロジェクトにおいてパイロットプラントスケールの超臨界水利用ダイオキシン分解プラントによる実証研究が実施されており, 要素技術の開発やプロセスの評価が可能になると期待されている。
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野生生物におけるダイオキシン汚染
崔 宰源・脇本 忠明
 残留性有機汚染物質のなかで環境に長期間残留性,生物濃縮性,強い毒性を持つダイオキシン類は,その非意図的な生成・排出のために近年大きな社会問題になっている。 環境庁をはじめダイオキシン類の汚染調査が全国規模で着手されているが,意外に野生生物に対する調査は行われていなかった。本報は鳥類を中心とした野生生物の汚染実態を紹介し, また,最近発表されたダイオキシン類の水質基準等と野生生物の保護について考えてみた。
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ダイオキシンの化学と環境動態
森田 昌敏
 ダイオキシンの発生源について物理化学的性質にもとづいて環境動態について述べている。ダイオキシンは水に難溶解性の物質で土壌に吸着されて残留しやすく, また食物連鎖を通じて高次の生物に蓄積される。わが国の環境汚染の現状について最近の調査結果を記述している。
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ダイオキシンと農薬
益永 茂樹
 有機塩素系化合物合成プロセスでダイオキシン類が副生することは古くから知られていたが,わが国では燃焼プロセスばかりが注目されてきた。 実際にわが国で過去に使われた農薬を調べると,高濃度のダイオキシンを含有していたものが存在し,現在のダイオキシン汚染の大きな原因となっていることが明らかになった。 それらの代表はペンタクロロフェノール(PCP)とクロロニトロフェン(CNP)である。それらの中のダイオキシン組成は,原料として用いられたクロロフェノール, および,その合成副生物である同族体由来のものが中心である。
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