Vol.26 No.11
【特 集】 環境保全型農業を支える新施肥技術


基準点一般調査データベースとこれを用いた土壌肥沃度の解析事例
(独)中央農業総合研究センター    草場 敬
 基準点調査データベースには、全国各地域の農用地の代表的な土壌に設置された、肥培管理や作付体系を異にした圃場における、土壌特性や作物収量など長期連用試験結果のデータが格納されている。 本データベースを用いて作物生産性や土壌理科学性に対する肥培管理の影響を解析したところ、作物収量に対する資材施用の影響は地目で異なること、作土の全炭素含有率の変化は連用開始時の値などによって異なることなど興味ある結果が得られた。 今後、成績書などを基にデータベースの充実を図るとともに、引き続き立地環境や肥培管理が作物生育および土壌特性に及ぼす影響を解明していく予定である。
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被覆肥料の特性と展望  −肥料効率の向上を目指して−
日本肥糧検定協会    越野 正義
JA 全農営農・技術センター    小林 新
 土壌に施用した肥料はすべてが作物に吸収・利用されるわけではない。残された肥料成分は肥料効率を低下させるばかりではなく、環境中に流出し環境負荷となることがある。 被覆肥料では、作物の吸収する時期に合わせて肥料成分を供給できるので肥料効率が向上し環境負荷も軽減できる。また濃度障害が起きにくい特性を生かして「接触施肥」が可能になり、 新しい施肥法も生れている。植物分泌物によって吸収が開始される被覆肥料や、リン酸・鉄などの被覆肥料についても研究が発展している。
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窒素肥料有効利用のための施肥法
千葉県農業総合研究センター    松丸 恒夫
 環境保全型農業に対する取り組みが全国的に進められているなか、収量性や品質を落とさずに施肥量を低減する技術が開発されてきている。本稿では、肥料の有効利用を図って、 施肥窒素量を低減する方法について、土壌残存窒素の有効利用、局所施肥(マルチ内施肥、条施肥、植溝施肥、育苗ポット内施肥、セル内施肥)、リアルタイム汁液栄養診断を採りあげて解説する。 また、それら施肥技術を用いた場合の減肥率、施肥窒素利用率、収量性について、千葉県の試験例を中心に紹介する。
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有機質肥料の施用により栽培された野菜の品質
女子栄養大学    吉田 企世子
 有機質肥料(ナタネ油かす、骨粉、鶏ふん灰)の施用により栽培したトマト果実の栄養価や食味が無機質肥料の施用によるものより優れた結果が得られた。また、歯ごたえや保存性に関係する物性も優れていた。 しかし、この結果は有機栽培トマトに一貫してみられる傾向ではない。

 ホウレンソウでは施肥区に差は見られず、ブロッコリーについては品種により有機質肥料の効果が異なることが観察された。

 有機質肥料の施用により、品質の優れた野菜を生産するためには関わる種々の要因に対応した検討の集積が必要である。
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有機農産物を見分ける指標としての窒素安定同位体比の利用
(独)野菜茶業研究所    中野 明正
 有機質肥料が野菜品質に与える影響について、化学肥料栽培の野菜との比較で考察した。筆者は、たとえ有機物施用によって野菜の品質に直接的なプラス効果がなくても、 未利用資源の有効利用の観点から何らかの形で有機農産物を科学的に保証することが必要であると考える。 そのための窒素安定同位体比を用いた有機農産物の科学的認証の可能性について述べた。有機性の液肥を用いて栽培した野菜や、牛糞および鶏糞堆肥などを施用して栽培した野菜など、 さまざまな野菜の無機成分を分析すると、再現性良く変化する元素は認められなかった。一方で、窒素安定同位体比は多くの野菜で有機物施用した場合に再現性良く高い値を示した。 結果を総合すると、δ15N値を有機農産物の真偽の判定に利用することが十分可能である。
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成分調整成型堆肥の生産とダイズ、コムギの減化学肥料栽培への利用
(独)九州沖縄農業研究センター    山本 克巳
 畜産集中地帯である南九州地域では、多量の家畜ふん尿が排出され、環境に重大な影響を及ぼすに至っている。九州沖縄農研では、堆肥のハンドリングの改善および肥料成分の不均衡を是正した成分調整型堆肥を製造し、 広域流通および作物栽培に供して堆肥の利用の促進を図ろうとしている。今回、この成分調整型堆肥を用いてダイズ、コムギを栽培し、従来の化学肥料栽培と比べて、遜色のない生育、品質、収量が得られた。 成分調整型堆肥を利用した無〜減化学肥料栽培が可能となったので、その事例を紹介する。
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