Vol.27 No.3
【特 集】 家畜ふん尿の高度処理と資源利用技術


家畜排せつ物の管理および利用の現状と研究開発への期待
農林水産省 生産局    小林 郁雄
 家畜排せつ物の不適切な管理による畜産環境問題の解決を目指して,平成11年に「家畜排せつ物法」が施行されており, 同法では家畜排せつ物の不適切な管理を改善する上で遵守すべき必要最小限の基準(管理基準)が設けられている。平成16年10月末日から, 管理基準に従った家畜排せつ物の適切な管理が義務付けられることとなっており,畜産環境行政においても新たな段階への移行が図られることとなる。 畜産農家にとって畜産環境対策に費やすコストと労力は依然として大きく,科学的な側面からのイノベーションが今後の畜産環境行政の推進にとって不可欠である。
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畜舎汚水の浄化処理における新しい窒素低減技術
埼玉県環境科学国際センター    金  主鉉
 家畜ふん尿は本来物質循環の観点からも,畜産農家の自家農場へ還元して有効利用することが望ましいが,大規模化している畜産業の現状, 環境保全に関わる法規制の強化などを考えると,畜舎汚水の適切な浄化処理は,今後の畜産経営を健全かつ長期的に発展させるうえで極めて重要なキーワードとなる。 本稿では,畜舎汚水からの窒素負荷を安定かつ高効率で軽減できる回分式活性汚泥法のリアルタイム制御手法を解説するとともに,連続実験での窒素除去性能について述べることとする。
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排泄物中の銅、亜鉛の低減に向けた飼養管理技術
(独)畜産草地研究所    高田 良三
 豚ぷん堆肥中の重金属,特に銅,亜鉛に関してその含量が極めて高いことが指摘されているが,その原因は主に子豚の成長促進効果やふん性状の改善を期待して飼料中に過剰の銅, 亜鉛を添加していることである。一方,土壌の重金属汚染防止の観点から銅,亜鉛含量の低い豚ぷん堆肥が要望されている。そこで,子豚の成長を損なうことなく適切な銅, 亜鉛含有飼料の開発に向けて研究が行われている。現在まで報告されている技術は,適切な量の銅,亜鉛の添加,フィターゼなどを利用した銅, 亜鉛の消化吸収率の改善,ペプチド態の銅,亜鉛の利用などである。
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動物用医薬品の堆肥化過程での消長および植物体への移行・残留
(財)畜産生物科学安全研究所    青木 葉一
 畜産物生産用家畜に投与される動物用医薬品,飼料添加物の残留は,薬剤などを投与された家畜を摂取する場合のヒトに対する安全性に目が向けられており, 畜体から排泄されるふん・尿中の薬剤およびその代謝物の自然環境における運命の追跡,堆肥中残留薬物の農作物を通してのヒトに対する間接的な影響調査は行われていない。 今回,動物用医薬品として繁用されている3薬剤を牛に投与し,堆肥化過程における薬剤の消長,さらに,薬剤残留が確認された堆肥を用いて植物体への移行・残留について検討したので, その試験過程および結果を紹介する。
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乾式メタン化技術による家畜ふん尿のエネルギー利用
栗田工業(株)環境事業部    三崎 岳郎
 家畜ふん尿からエネルギーを取り出し有効に利用するには,生ごみや古紙類などの有機性廃棄物との複合処理が有利であり,乾式メタン発酵技術が適用できる。 乾式メタン発酵残さは固液分離することなく炭化や堆肥化することができ,メタン発酵の大きな課題であった水処理のないプロセスが可能となった。 国内では鹿児島県屋久町内に乾式メタン発酵装置に炭化装置を組み合わせたパイロットプラントが設置され良好な運転が行われている。
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家畜ふん尿の多段階式コ・ジェネレーションシステム
(独)九州沖縄農業研究センター    薬師堂 謙一
 九州沖縄農業研究センターでは,畜産集中地帯で余剰となっている家畜ふん尿を燃料源に,炭化・ガス化し発電を行い, 廃熱により地域で発生する食品残さを乾燥して飼料化する資源循環型のエネルギー生産システムを開発している。家畜ふん尿は材料水分が多く, タール分や,アンモニアや硫黄,塩素分を多く含むため,発酵乾燥+太陽熱乾燥+炭化廃熱乾燥でほぼ水分0%まで乾燥する。 次いで,無酸素状態で材料を炭化し,破砕・成型後,ガス化炉で熱分解ガスを発生させ,エンジンを駆動し発電する。 発電廃熱やガス化廃熱で食品残さを乾燥飼料化することにより事業化で経営収支のとれたエネルギー化システムとなる。
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家畜ふん尿の超臨界水処理技術
静岡大学 工学部    佐古  猛・岡島 いづみ
 超臨界水を用いた家畜排泄物の処理技術を開発した。一つは超臨界水中,無触媒下でクリーンおよび完全燃焼して熱エネルギーを回収する技術, もう一方は触媒存在下,超臨界水中でガス化して水素リッチな燃料ガスを生成する技術である。超臨界水中燃焼では,600℃,15MPa,反応時間15分, 酸素比1.2の条件で,排泄物中の炭素分をすべて二酸化炭素まで燃焼し,かつ窒素分はアンモニアを全く生成することなく無害な窒素ガスに変換することができた。 一方,超臨界水ガス化に関しては,700℃,10MPa,30分,20wt%の水酸化カリウム触媒の条件で,排泄物中の有機分1g当たりから1,550ml(25℃,0.1MPa)の水素を生成することができた。 どちらの方法も水中での処理のために,前もって排泄物を乾燥する必要がなく,短時間に処理できるという利点を持っている。
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