Vol.27 No.8
【特 集】 個性豊かな農産物をつくる


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

ブランド・ニッポン 特色ある農産物の開発研究に熱い期待
(独)農・生研機構    小川  奎
 品種の育成から生産,加工すべてが国産である「ブランド・ニッポン」農産物・食品は,消費者に支持され,食料自給率の向上にも貢献する。 今なお,熱い期待に応えるべく,特色ある新たな品種などの開発が精力的に展開されている。
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健康に役立つ成分ギャバを多く含む巨大胚のもち米「めばえもち」
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター    後藤 明俊
 米胚芽を水に浸漬すると蓄積されるギャバは,血圧上昇抑制などに効果がある機能性成分である。胚芽中のギャバ蓄積をさらに高めるには, 巨大胚の米を用いることが有効であるため,人工交配により,巨大胚の糯品種「めばえもち」を育成した。「めばえもち」の胚芽重は千粒当たり1.2〜1.7g程度で, 一般品種の約3倍程度に相当し,発芽玄米の胚芽のギャバ含量は一般品種の約2倍となる。この性質を利用し,ギャバ蓄積量の多い機能性食品として, 「めばえもち」を用いた発芽玄米餅,胚芽入り餅などが開発されており,「めばえもち」は,米の新規需要を喚起する品種として普及が期待されている。
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冷めてもおいしい低アミロース米品種「ミルキープリンセス」
(独)農・生研機構 作物研究所    安東 郁男
 東北南部以南に適する低アミロース米品種「ミルキープリンセス」を育成した。本品種は「ミルキークイーン」の交雑後代であり, 「ミルキークイーン」と同様の玄米特性を有する。アミロース含量は約8%であり,炊飯米の粘りが強い。糊化でんぷんが老化しにくいため冷えても食味の低下が少ない。 標準的な施肥条件ではやや収量が少ないが,「ミルキークイーン」よりも短稈で倒伏に強く,いもち病や縞葉枯病に対する抵抗性も改良されている。 現在福島県で産地銘柄になっている。
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蛋白質摂取低減を目指した良食味の低グルテリン米品種「LGCソフト」
(独)農・生研機構 近畿中国四国農業研究センター    春原 嘉弘
 慢性腎不全患者の低蛋白質食事療法において,易消化性蛋白質のグルテリンを低下させ,難消化性蛋白質を増やした低グルテリン米品種「エルジーシー1」の利用が臨床的に有効であるという報告がある。 長期にわたる食事療法をより容易に継続していくためには食味の向上が重要であり,低アミロース形質を付加して良食味の低グルテリン米品種「LGCソフト」を育成した。 本品種は,高度搗精などと組み合わせて低蛋白質食事療法用米の素材として利用が期待される。
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中華麺やしょうゆ原料用に使える小麦「タマイズミ」
(独)農・生研機構 作物研究所    藤田 雅也
 「タマイズミ」は,国産小麦で作った製品を手にしたいという消費者や加工業者の要望に応え,平成14年度に命名登録された関東・東海地域向け初の硬質小麦品種である。 この地域の主要品種である「農林61号」に比べ,成熟期が3日程度早く,蛋白質含量が2%程度高いため,中華麺やしょうゆ原料用として使える。 白粒種であるため,穂発芽耐性は「農林61号」と比べてやや弱い。三重県,岐阜県,栃木県の3県で奨励品種などに採用され普及が始まっている。 平成15年播きの栽培面積は約1,200haである。
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含硫アミノ酸含量を高めアレルゲン蛋白を低減した
大豆品種「ゆめみのり」
(独)農・生研機構 東北農業研究センター    湯本 節三
 「ゆめみのり」は,種子貯蔵蛋白質のうち7Sグロブリンのαとα′サブユニットが欠失し,βサブユニットの生成量が低下して, 相対的に11Sグロブリン含量が増大している。11Sグロブリンは必須アミノ酸である含硫アミノ酸を多く含み,本品種も含硫アミノ酸含量が高い。 また,大豆の3つの主要アレルゲンのうち2つを欠いており,低アレルゲン加工食品の製造においてアレルゲン除去工程の簡略化と効率を高めることが容易となっている。
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ビタミンCとリコピンに富む高機能性トマトF1品種「SPL8」
神奈川県農業総合研究所    北  宜裕
 果実が長円筒形で濃桃色,果肉は鮮赤色で厚く,ビタミンCおよびリコピン含量が顕著に高い生食・調理兼用可能なF1品種「SPL8」を育成した。 促成作型を中心とした施設栽培に適し,直売向きの地域特産品種として今後の普及が期待される。
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良食味で日持ち性と輸送性に優れる
促成栽培用イチゴ「さちのか」
(独)農・生研機構 九州沖縄農業研究センター    沖村  誠
 「さちのか」は「とよのか」と「アイベリー」を交雑して育成された促成栽培用の品種で,1996年に命名登録,2000年に品種登録された。 草姿はやや立性であり,着色促進のための玉出し作業や果梗伸長のためのジベレリン処理を必要とせず,省力的である。果実は「とよのか」よりやや小さいが, 光沢,着色に優れる。果形が良く揃い,果実硬度が高いため,収穫・選果・パック詰めの作業性に優れ,また日持ち性・輸送性が高い。糖度が安定して高く, 食味が極めて良いうえ,ビタミンC含量が安定して高い。九州を中心に西日本の主要品種となっている。
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栗のような風味あふれる橙黄肉色のジャガイモ「インカのめざめ」
(独)農・生研機構 北海道農業研究センター    森  元幸
 「インカのめざめ」は,「男爵薯」のような4倍体普通栽培種(Solanum tuberosum ssp. tuberosum)とは異なり,2倍体栽培種Solanum phurejaに由来する日本で初めての2倍体品種である。 ジャガイモの原産地でしか栽培されていない独特の食味と風味を有する2倍体小粒種を,日本のような長日条件でも栽培できるように改良した。
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ルチンが多く、風味・食味が優れるそば「とよむすめ」
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター    伊藤 誠治
 栃木県の在来品種「葛生在来」からの選抜育種によって,多収で機能性が期待できるルチン含量が多いそば新品種「とよむすめ」を育成した。 主要品種の「信濃1号」に比べ,子実重が4割多く,草丈は約20cm高いが,倒伏にはやや強く,ルチン含量が4割多い。南東北以南の本州の秋そばに適する。
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ゴマリグナン含有量の高い新品種「ごまぞう」
(独)農・生研機構 作物研究所    勝田 真澄
 ゴマリグナンの含有量が高く,収量性の高いごま新品種「ごまぞう」を育成した。本品種は,ペルー原産の白ごま系統「TOYAMA016」と中国原産でリグナン含有量の高い系統「H65」を交配し, 系統選抜法により育成し,2002年にごま農林1号として命名登録を行った。「ごまぞう」に含まれる脂溶性のゴマリグナンであるセサミンとセサモリンの含有量は, それぞれ「真瀬金」の約2倍と1.6倍である。本品種は,付加価値の高い地域特産物開発の素材として,国産ごまの栽培復興に貢献できる品種である。
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食用油に適し、絞り粕を家畜飼料にできるナタネ品種「キラリボシ」
(独)農・生研機構 東北農業研究センター    山守  誠
 ナタネ品種「キラリボシ」は健康上好ましくないとされるエルシン酸を油にほとんど含まないので食用油に適している。さらに,種子中のグルコシノレートが低下しているので油粕は家畜飼料に適する。 成熟期は中生で,「アサカノナタネ」に比べて収量は多く,菌核病抵抗性,耐倒伏性,耐寒雪性は強い。「キラリボシ」は日本で初めて実用栽培されるダブルロー品質のナタネであり, 東北地方南部で栽培される。資源循環を目指すナタネ栽培が展開されるなかで活用が期待される。
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ヤーコンの新品種「サラダオトメ」「アンデスの雪」「サラダオカメ」
(独)農・生研機構 近畿中国四国農業研究センター    藤野 雅丈
 ヤーコンは機能性に富んだ新しい根菜類として普及が期待されており,わが国に適した品種の開発が望まれている。新しく育成された3品種は, 「在来導入系統」に比べ裂根が少なく外観品質が優れる,塊根肉色が白くて美しく貯蔵性が優れる,塊根肉色が鮮やかなオレンジ色で甘くて食味が優れる, などの特徴がある。
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おいしさをそのまま食べる種なしスイカ「大宝美」「レインボウ」
(独)農・生研機構 野菜茶業研究所    杉山 慶太
 従来の3倍体を利用した種なし化技術に変わる新しい技術が開発された。軟X線で照射した花粉を雌花に授粉するだけで, どのような品種でもそのまま種なしスイカに変えることができる。そのため,今の種ありスイカの優れた食感,甘さ,風味などを維持したまま, 種なしスイカとなる。今年この技術を利用したスイカが初めて商品化された。
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酸味が強くて外観がよい「さんたろう」
おいしくて日持ちがよい「きたろう」
(独)農・生研機構 果樹研究所    高橋 佐栄
 リンゴの品種構成の現状を見ると,9月下旬〜10月下旬に成熟する中生の主力品種がなく,これに相当する優良品種の育成を求められている。 そのため,果樹研究所リンゴ研究部では,中生の新品種として「さんたろう」および「きたろう」を育成した。「さんたろう」は酸味が強く, 果皮が濃赤色に美しく着色するリンゴである。「きたろう」は甘味と酸味のバランスがよく,食味が濃厚で,「ふじ」並みの貯蔵性をもつ日持ちのよいリンゴである。
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大果で果肉が濃黄色のキウイフルーツ新品種「さぬきゴールド」
香川県農業試験場    福田 哲生
 香川県オリジナルのキウイフルーツ新品種「さぬきゴールド」を育成した。「さぬきゴールド」は,アップル系キウイフルーツに中国系キウイフルーツの雄系統 (保存系統名:FCM−1)を交配して育成した品種である。この品種は10月中旬に成熟する早生品種で,大果で果肉は濃黄色を呈し,糖度が高く食味も良好である。
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東洋蘭の香りは癒し系の香り新香味茶「そうふう」
(独)農・生研機構 野菜茶業研究所    根角 厚司
 緑茶・半発酵茶用品種「そうふう(蒼風)」は,野菜茶業研究所(金谷茶業研究拠点)で育成され,2002年に茶農林49号として命名登録された耐病性に優れ, 生育が旺盛な早生品種である。東洋蘭あるいはジャスミン系の独特の香りをもち,緑茶だけでなく,釜炒り茶や半発酵茶にも適性を有している。 摘採期の分散化だけでなく,近年の多様化した消費者ニーズに応えることができる新香味品種として注目されている。
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γ‐アミノ酪酸(ギャバ)を生成する乳酸菌「L.lactis 01-7株」
(独)農・生研機構 畜産草地研究所    野村  将
 乳製品製造の際に利用される乳酸菌混合培養物(スターター)から機能性成分であるγ−アミノ酪酸(ギャバ)の生成比が高い01−7株を分離した。 スターター由来なのでヒトに食された経験が豊富であり,人体への安全性が高い株と考えられる。単独培養では乳中での生育はよくないが, 酸生成力が強い株と混合培養すると,ほぼ1:1の割合でよく生育する。01−7株を用いて熟成中にギャバを100〜200mg/100g生成するチーズを開発した。
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ビタミンB1いっぱいのシイタケ「ビタミンB1しいたけ」
千葉県森林研究センター    寺嶋 芳江
 ビタミンB1を豊富に含む生シイタケ「ビタミンB1しいたけ」の生産技術を開発した。ビタミンB1は,体内で糖質の分解に関与する大切な栄養素である。 通常肉類などの高カロリー食品に多く含まれるが,野菜類には少ないという難点がある。このたび,このビタミンを培地に加えることにより, 低カロリー食品であるシイタケに取り込ませることに成功した。
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コレステロール値を下げるエリタデニンの含量が高い
シイタケ品種「H44」
(財)日本きのこ研究所    豊増 哲郎
 エリタデニンは血漿コレステロールを下げる物質として発見されたシイタケ固有の成分で,メチオニン代謝の中間体ホモシステインの生成を阻害する。 近年,血液中のホモシステイン濃度の上昇がコレステロール値などとは独立した動脈硬化の危険因子として知られるようになり,エリタデニンの有する機能が注目されるようになった。 シイタケは最もなじみのあるきのこであるが,エリタデニン高含有を特徴とするシイタケ品種「H44」を開発したことによって新たな利用が期待できる。
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煮物、焼き物、炒め物においしい大型ナメコ「福島N2号」
福島県林業研究センター    熊田 洋子
 福島県が品種登録申請し受理された「福島N2号」は,一般に市販されているナメコに比べ傘が大きく柄が太い特徴をもつ大型ナメコである。 大きさを生かした料理はもちろん,カット,スライス,裂くなどして料理に使用することができる。従来のナメコ料理の幅を拡げることによって需要の拡大が期待される。
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