Vol.28 No.7
【特 集】 国産小麦の高品質化をめざして


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

麦生産の動向と研究開発の現状と課題
(独)農・生研機構 中央農業研究センター作物研究所    田谷 省三
 近年,わが国の4麦の生産量は,平成7年産では66万2千tであったが,平成12年産以降急増し,16年産では105万9千tになった。このうち, 小麦は86万300t,大麦・裸麦は19万8,600tである。平成11年度からスタートした「麦緊急研究開発プロジェクト」(以下「麦緊急プロ」)により, 平成11年度から16年度までに,イワイノダイチ,あやひかりなどのめん用小麦10品種,ニシノカオリ,はるひのでなどのパン用など硬質小麦8品種, セツゲンモチ,ファイバースノウなどの六条大麦4品種,裸麦のマンネンボシおよび二条大麦のスカイゴールデン,しゅんれいの合計25品種が育成されている。
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赤かび病抵抗性育種研究の現状と抵抗性小麦品種の開発
(独)農・生研機構 九州沖縄農業研究センター    河田 尚之
 小麦の赤かび病抵抗性育種は,抵抗性強品種の蘇麦3号や中間母本を育種素材に,精度の高い抵抗性検定法を用いて抵抗性有望系統の選抜が進んでいる。 最近,抵抗性に関与する量的形質遺伝子のDNAマーカーが明らかにされ,抵抗性遺伝子領域の集積が開始され育種の効率化が示されている。 また,閉花性小麦が感染抵抗性を示すことから,マーカー選抜による進展抵抗性の集積と,閉花性による感染抵抗性を組み合わせることにより, さらなる抵抗性の強化が期待される。
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穂発芽耐性小麦の開発
帯広畜産大学 畜産学部    三浦 秀穂
 穂発芽被害は,わが国のみならず主要な生産地帯である北アメリカやヨーロッパ,オーストラリアでも重要な問題として捉えられている。 対策として,種子休眠性の強い品種開発が最も有効と考えられる。しかし,種子休眠性は多数の量的遺伝子(QTL)に支配される量的遺伝形質であり, 生育環境にも強く影響されるため,解析が難しく,育種操作が容易でない。この報文では,穂発芽耐性育種の流れと種子休眠性の遺伝に関連する最近の情報を紹介する。
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梅雨被害回避のための早生小麦の育成と早播栽培技術の開発
(独)農・生研機構 九州沖縄農業研究センター    小田 俊介
 小麦収穫時期の梅雨による品質劣化を回避するため,入梅前に収穫可能な秋播型早生品種イワイノダイチとそれを用いた早播栽培技術が開発された。 イワイノダイチは,従来の九州で栽培されている小麦品種とは異なり秋播性程度が高いため早播きしても茎立ちが早くならず,凍霜害を避けることが可能である。また,イワイノダイチの生育特性に合わせた後期重点施肥と播種密度を低くする栽培法で,早播栽培でも標準時期播種と同等の収量・品質の確保が可能となった。
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めんの食感を改善した小麦品種の育成
(独)農・生研機構 中央農業研究センター作物研究所    藤田 雅也
 平成11年度から「麦緊急研究開発プロジェクト」の一環として,品質面では輸入銘柄のASWを一つの目標にめん用小麦の品種改良を進めてきた。 その結果,低アミロース系統関東107号などを交配母本として,従来品種よりめんの食感(粘弾性,なめらかさ)が格段に向上した小麦新品種が続々と誕生してきている。 これは,めんの食感という官能評価を科学的に選抜できる指標に置き換え,育種に使えるようにした研究の成果でもあり,具体的なデータも交えて紹介する。
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讃岐うどん用小麦「さぬきの夢2000」の開発
香川県農業試験場    多田 伸司
 「手打ち」で製麺される讃岐うどんは,小麦粉に対して多くの塩水を加える多加水条件で製造される。香川県が讃岐うどん用に育成した「さぬきの夢2000」は, やや低アミロースで多加水麺の食感の評価に優れている品種である。その開発に当たっては,半数体育種法(メイズ法)により育成年限の短縮を図り, 多加水条件で麺の品質を検討して選抜するとともに,関係者の濃密な連携によって実用化と普及が進められた。
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新しい形質小麦品種「超強力小麦」への取り組み
(独)農・生研機構 北海道農業研究センター    田引  正・山内 宏昭
 現在,国内産小麦の自給率は10%を超えているが,そのほとんどは日本麺用であり,消費量の多いパン用や中華麺用の硬質系の小麦はほとんど生産されていない。 そこで,グルテンの力が強い超強力小麦を育成して,国内産日本麺用粉にブレンドすることにより,需要が多い硬質系小麦粉のニーズに対応することを検討している。
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国産パン用小麦新品種の特徴を活かした商品開発
鳥越製粉株式会社    清水 秀典
 日本の食事の洋風化に伴い急速に広まったパン食は今や日本の食卓に無くてはならないものとなった。パンに求められる品質についてもボリューム感, ソフト感,パン内相色重視の時代から消費者の嗜好の多様化に応じた様々なパンが求められる時代へと変化してきた。また,パンの生産面においても, かつての国内産小麦を使用したパンは工場での大規模生産には適さず,街の小規模ベーカリーなどで手作りによって作られるのがほとんどであったが, 今や製パン技術と国内産麦の品質向上により,外国産小麦を使用したパンと遜色ない製品が工場生産されている。 このような環境のなかでここでは(独)農業・生物系特定産業技術研究機構から委託を受けたプロジェクトでの九州産硬質小麦品種のパン製品実用化に向けた検討結果について述べる。
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