Vol.28 No.10
【特 集】 木・竹利用技術の最先端


木材成分有効利用の未来にむけて
東京大学 アジア生物資源環境研究センター    飯山 賢治・金 貞福
 森林資源の利活用は,第二次世界大戦を前にして,「もたざる国」が積極的に乗り出す。戦後日本は,木材化学工業は日本経済全体にとって非常に大きな影響をもたらすと位置づけ, 研究開発が進められた。しかし石油リファイナリー工業と経済的に太刀打ちできないことから,その努力は報われないままに捨て置かれた。 2002年12月に総合科学技術会議はバイオマス・ニッポン総合戦略を策定し地球環境保全,循環型社会の構築を目指す新たなバイオマス・リファイナリー確立を目指している。
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木質系廃棄物の有効利用技術
(独)森林総合研究所    大原 誠資
 現在,わが国の製材工場やキノコ栽培で多量に排出されている樹皮や廃菌床の有効利用技術ならびに木質系廃棄物の炭化で得られる木酢液の効能に関する最近の研究を中心に紹介する。 樹皮利用に関しては,石油代替製品の製造,園芸用資材やバイオマス発電資材としての利用ならびに樹皮成分の機能性素材への変換が行われている。 木酢液の抗酸化能は炭材によって異なり,広葉樹木酢液や竹酢液が高い活性を有する。エノキタケ廃菌床には子実体形成促進物質が含まれており, 廃菌床を単に再使用するだけでなく,生理活性素材としての活用が期待される。
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木材の液化から得られる化学原料
東京大学大学院 農学生命科学研究科    小野 拡邦
 木材の酸分解と,その分解物と液化剤との反応が並列して起きる酸化溶媒分解に分類される液化に関して,フェノール液化と多価アルコール液化の2種を取り上げ, 液化の本質と生成する液化物の化学種およびそれらの化学原料としての可能性について概説した。フェノール液化では木材主成分からフェノール残基を持つ生成物が得られるため, これを利用する高分子材料への展開が可能となる。一方,多価アルコール液化ではセルロース成分の液化生成物にグルコシドやレブリン酸誘導体が生成する。 これらの成分は,多岐にわたる化成品の化学原料として有用であると考えられ,今後の進展が期待できる。
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セルロースナノファイバーを用いた高強度ナノコンポジット
京都大学 生存圏研究所    矢野 浩之
 木,竹を含む全ての植物資源は,セルロースミクロフィブリルと呼ばれる幅4nmの高強度ナノファイバーが,基本骨格となってできている。 このセルロースミクロフィブリルが数本あるいは数十本の束となったミクロフィブリル化繊維を原料に用いて,成型材料を製造すると,鋼鉄並みの強度が得られる。 この高強度ナノコンポジットは,持続型資源から作る高強度成型材料としてさまざまな用途への応用が期待されている。
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スギなど地域材を用いた新しい木質材料・構造の展開
(独)森林総合研究所    神谷 文夫
 地域材の需要は30年以上にわたり低下し続けてきたが,行政,研究,民間による技術開発や基盤整備の努力により,わずかではあるが用材自給率が前年より上昇するという明るい兆しが見えてきた。 ここでは,スギを中心とする地域材を利用するうえでの技術的問題点を始め,地域材の乾燥システムの開発,地域材を使った集成材や合板の製造法と新しい需要の開発, 地域材の特性を生かした大規模木造建築物の設計技術,地域材利用の木製防護柵の開発など,これまでに行われてきた技術開発の状況と,これから行う技術開発のねらいを述べた。
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竹繊維強化複合材料の開発と応用
同志社大学 竹の高度利用研究センター    藤井  透
同志社大学 工学部   大窪 和也
 その強さ・堅さの源である繊維に着目すれば,竹の幅広い利用が図れる。竹材では,採取部位によって引張り強度などその機械的特性が影響される。 しかし,竹繊維では採取位置によらずおおむね引張り強度は同じである。その強さは比強度で見ればガラス繊維にも匹敵する。 竹繊維(束)を50%以上混入した熱可塑性樹脂(TP)を安定的に製造できる新たなペレット製造方法を開発した。竹繊維はTPの強度を2倍以上に増加させることができるとともに, 剛性も大幅に高められる。竹繊維を利用すれば,TPの使用量を減らすことができ,省エネに加えて二酸化炭素削減にも効果がある。 竹繊維の特徴を生かした利用法についても言及した。
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竹からプラスチック素材
徳島大学 工学部    高木  均
 爆砕処理により取り出した竹繊維を高温高圧でホットプレス成形することにより,竹が部分的に樹脂化してプラスチック素材のように成形加工することが可能になる。 この成形体の強度特性は,成形温度と成形圧力に強く依存する。温度に関しては高すぎても低すぎても成形体の強度は低下し,約120℃が最適成形温度となる。 圧力に関しては,高いほど成形体の強度が高くなる傾向があることを示した。今後はこの技術を実用品へ応用するためにさらに成形の基礎データを蓄積する必要がある。
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