Vol.29 No.4
【特 集】 環境に優しい作物生産の新技術


環境保全型農業研究の課題
元 筑波大学 農林工学系    西尾 道
 環境負荷を軽減する農業技術を開発・普及するには,作目別の研究だけでなく,地域レベルでの研究が大切である。 また,基本技術として堆肥からの養分放出予測技術や輪作を普及させる研究が必要である。技術開発では学際的な取り組みが大切である。 そして,汚染実態の公表があってこそ技術が普及される。これらについて例をあげて述べる。
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共生窒素固定系を活用した肥料削減技術
宮崎大学 農学部    井手 健一・赤尾 勝一郎
 私たちは,近年の急速な人口増に見合うだけの穀物生産量を化学窒素肥料の多投技術によって成功させてきた。 しかし,投入された窒素のうち植物に利用されるのは投入量の約半量で,残りの多くは農地から流出して地下水の汚染源として問題になっている。 この地下水汚染を解決する切り札として「共生窒素固定系」に熱い視線が向けられている。つい最近まで,イネ,ムギなどの非マメ科植物に共生窒素固定系を賦与することなど夢のまた夢と考えられてきたが, サトウキビやサツマイモに備わっているエンドファイトによる窒素固定系が私たちの常識を覆して主要作物の窒素源として活用可能となる日も遠くないと期待している。
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籾がらの低温燃焼による高溶融性ケイ酸質肥料資材化
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    伊藤 純雄
 ケイ素(Si)は植物の必須元素ではないが,ケイ酸(SiO2)の形で作物に吸収され,特に水稲では生育を改善して病害を抑える効果が高い。 最近では水稲以外の作物でも病害の発生を低下させて作物の生産性を高めるなど,ケイ酸の環境保全的な効果が広く注目されている。 その一方で土壌のケイ酸肥沃度の低下が懸念されており,経済的で効率の良いケイ酸肥沃度向上技術が求められている。 以下に,ケイ酸の環境保全的な価値について述べ,未利用資源である籾がらのエネルギーを利用したうえで,籾がら灰に大量に含まれるケイ酸を肥料として地域で循環利用する技術を紹介する。
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輪作、間作・混作による病害虫、雑草の制御
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    山本 泰由
 輪作,間作・混作,田畑輪換などの耕種的な手段による土壌病害や線虫害,雑草害を軽減,回避するための試験, 研究の現状と問題点および土壌病害や線虫害による連作障害を回避するため各地で奨励,実践されている輪作体系などについて解説する。 また,カバークロップ(リビングマルチ)を利用した除草剤の使用量を削減するための雑草防除法,間作・混作,障壁作物(周囲作)によって圃場の植生を多様化した虫害の制御などの新たな取り組みについて紹介する。
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植物の免疫機能を利用した病害防除技術
明治製菓(株)    梅村 賢司・古賀 仁一郎・三冨 正明
 通常の農薬が病原菌への抗菌作用や侵入阻害作用によって防除効果を示すのに対して,宿主である植物側に作用して防除するタイプの農薬がある。 このような農薬による作用は植物の免疫機能を利用したものであり,生態系への影響が低い点から環境負荷が少ないといえる。 持続的な農業生産方式である環境保全型農業の構築に向け植物の免疫機能を利用した病害防除技術は今後ますます重要になる。
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マルチラインによるイネいもち病の防除
新潟県農業総合研究所 作物研究センター    堀  武志・石川 浩司
 イネの重要病害であるいもち病の防除に,イネの持つ真性抵抗性を導入した同質遺伝子系統の育成が進み,それらを混合栽培するマルチラインの実用化が進んでいる。 新潟県ではコシヒカリのいもち病真性抵抗性同質遺伝子系統を育成し,2005年には栽培面積約9万haに及ぶ従来のコシヒカリを,全県一斉にコシヒカリマルチラインに切り替えた。 これによりいもち病の防除回数が大幅に削減され,また,導入初年目は葉いもち,穂いもちともに極少発生となった。マルチラインによる発病抑制機構はある程度解明されてきたものの, いもち病菌レースの変動要因や変動予測,長期的な系統の混合戦略については不明な点が多く,今後の課題となる。
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天敵をうまく利用した害虫管理の新しい考え方
京都大学 生態学研究センター    高林 純示
 植物はさまざまな植食者(害虫)の攻撃を受けた際に,防衛する手段を多様に進化させてきている。害虫に対して毒物質などを生産する防衛方法(直接防衛)はなじみ深いが, 害虫の天敵を積極的に利用して,食害している害虫を退治してもらおうという間接防衛も有効な防衛手段である。本稿では,この植物の間接防衛について概観し, それを利用した害虫管理への応用について述べる。
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植物根の機能を利用した新被覆肥料の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    加藤 直人
 被覆肥料は農作業の省力化と環境保全型農業を推進するためのキーテクノロジーの一つである。しかし,普及率を高めるには, 低温下での溶出遅延や被膜の残留性などの問題を解決する必要がある。そこで,植物根の機能による溶出制御法を考案した。 具体的には,イネの根の酸性化作用によって溶出が促進される肥料を作出した。このような肥料の開発には,施用した肥料の近傍の土壌環境と, そこに根が伸張したときの変化に関する詳細な研究が必要である。
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