Vol.29 No.7
【特 集】 茶の機能性とさらなる活用


茶に係る研究の歴史と今後の方向
元(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所   武田 善行
 日常茶飯事と言われるように,わが国では「茶」は日常の飲み物である。近年,茶は健康飲料として注目されるようになり, カテキン類などの茶に含まれる化学成分の研究が大いに進展した。一方,茶の栽培,加工面では,機械化が進み,茶業は最も省力化の進んだ産業となっている。 このような茶業の進歩を支えた茶業研究についてこの100年間の歴史を紹介し,今後の方向性を示す。
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わが国における茶育種の歴史と新たな育種目標
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所    根角 厚司
 茶の育種は,明治初期に幕臣であった多田元吉らによる中国,インドからの遺伝資源導入に始まる。その後,交雑育種によって品質や収量性は向上し, 挿し木繁殖技術の確立によって品種化が急速に進んだ。茶品種の育種目標は時代背景や栽培技術の進展とともに変化し,高品質,多収,早晩性,耐寒性, 挿し木発根性,耐病性などの品質特性や栽培特性だけでなく,近年は,カテキン類など機能性成分高含有品種や低カフェイン品種など, 嗜好品としての茶から離れたニーズにも応える必要が出てきた。また,環境保全型の栽培体系が強く求められており,そのための高度耐病虫性, 少肥栽培適応性品種の開発も期待されている。
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茶の機能性研究の最前線
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所    山本(前田)万里
 茶は,近年,生理機能性が多数解明されて注目されてきた嗜好飲料である。チャ(Camellia sinensis)はツバキ科の植物で,製法的な違いから, 不発酵茶(緑茶:蒸したり炒ったりして酸化酵素を失活させてから揉む茶),発酵茶(紅茶:熱をかけずに十分酸化させた茶; ウーロン茶や包種茶:少し酸化萎凋させてから熱をかけて酸化を止める半発酵茶;黒茶や阿波番茶:熱処理した茶葉を微生物で発酵させた後発酵茶)に分けられる。 ここでは,最近の茶の機能性研究におけるトピックスを紹介する。
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茶に含まれるギャバの効果
大妻女子大学家政学部    大森 正司
 食塩負荷ラットに煎茶およびギャバロン茶を飲用させ,血圧および腎臓組織への影響を検討した。(1)本態性高血圧自然発症ラット(SHR)の血圧は, 対照区では4週間の実験期間に168mmHgから202mmHgまで上昇したが,食塩負荷区では241mmHgまで上昇した。これが食塩負荷煎茶投与群では219mmHg, 食塩負荷ギャバロン茶投与群では217mmHgで,食塩負荷による血圧上昇を有意に抑制した。これは食塩感受性ラットDahl(S)においても同じ結果であった。 (2)食塩を負荷した脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)は,脳卒中を発症して次々と死亡したが,煎茶やギャバロン茶を同時に投与した区においては, 全実験期間中での死亡は認められなかった。(3)食塩を負荷したDahl(S)の腎臓は腎硬化症を呈し,糸球体の腫大と硝子化,尿細管の萎縮と再生像が見られた。 このDahl(S)に煎茶,ギャバロン茶を投与すると,これらの病理所見は軽減された。(4)煎茶とギャバロン茶を比較すると,食塩による血圧上昇抑制効果はほぼ同様の結果であったが, 腎組織損傷の軽減効果については,ギャバロン茶の方が優れていた。
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緑茶カテキンの抗がん、抗アレルギー作用
九州大学大学院農学研究院    梅田 大介
九州大学大学院農学研究院・九州大学バイオアーキテクチャーセンター    立花 宏文
 近年,緑茶カテキンの機能性に関する科学的知見が蓄積しつつあるが,その作用機序には謎が多い。これまでに,緑茶カテキンの主要成分であるエピガロカテキンガレート(EGCG)の機能性発現に関する研究を行い, EGCGの抗がん作用を仲介する細胞膜上分子,いわゆる緑茶カテキン受容体として67kDaラミニンレセプター(67LR)を同定した。 さらに,67LRがEGCGの抗がん作用を仲介する分子機構について検討し,EGCGは67LRを介して細胞骨格や細胞周期を制御することを見いだした。 また,EGCGやメチル化カテキンによるヒスタミン放出抑制作用等の抗アレルギー作用も67LRを介していることを明らかにした。
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食品からのアプローチによるアレルギー疾患の一次予防
東京海洋大学保健管理センター    木谷 誠一
 生活習慣病という概念の登場とともに予防の考え方も変化し,食品が一次予防として再認識されてきた。ワインの効能が脚光を浴びて後, 日本でも緑茶カテキンの生活習慣病に対する保健作用に関心が集まった。一方,ヨーグルトによるアレルギー予防が注目を浴びていたが, カテキンの免疫調節作用が期待された。これらが合流した時点で,われわれも,特殊なカテキンを持つ紅茶系品種である「べにふうき」の緑茶飲用によるアレルギー患者に対する効果を検討したところ, アレルギー症状を軽減する効果や医薬品を減量できる効果が判明した。緑茶飲料の効能は,素材提供の意味もあり,食育の国民的展開のためさらなる臨床研究が期待される。
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番茶の利用法と食茶について
静岡産業大学情報学部    中村 羊一郎
 現在,日本茶といえば蒸し製の煎茶をさすのが普通であるが,飲用を目的とした高付加価値の茶としての生産技術が確立されたのは元文3年(1738)とされ, たかだか260年ほどの歴史しかない。それ以前には,日本でも各地各様の製法によって作られた番茶を煮出して飲んだり,その汁を調理のベースに使うのが普通であった。 東アジア各地に目を転じても,純粋飲料として特化する以前の茶は,飲用・食用とも実に多様な展開をしている。ここでは,その実態を紹介しながら, 最近流行している食茶に関する批判的見解を述べる。
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お茶料理のさらなる可能性をめざして
相模女子大学    須永 恵子
 日本で栄西が「喫茶養生記」を著して800余年,今,お茶の持つさまざまな機能性が立証されるようになり,お茶への関心が高まり, お茶の栄養を100%取り入れることのできるお茶料理が注目されている。お茶料理には,さまざまなテクニックがある。茶葉を使ったり,粉末にしたり, 浸出液を使ったり,茶殻もおいしく料理することができる。お茶を天然のサプリメント,栄養豊富な緑黄色野菜と考えると,さらなる可能性が広がってくる。 お茶料理で食育やロハスな暮し方を提案し,さらに心を癒すお茶料理,世界に広がるお茶料理も紹介する。
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