Vol.30 No.9
【特 集】 遺伝子組換え農作物安全性評価技術


遺伝子組換え農作物の栽培に関する安全性評価技術の国際動向
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 麦類遺伝子技術研究チーム    川口 健太郎
 遺伝子組換え技術の産業利用が可能になった背景には,科学的な安全性評価の考え方を確立した国際的な場での安全性概念の構築作業があった。 今後,開発されるであろう新しい遺伝子組換え農作物の安全性評価を適切に行う上でも,これまでに構築された安全性評価に関する重要な概念を繰り返し確認しつつ, 国際的に協力しながら製品の安全性に関する科学的データや安全な使用経験,知識をできる限り多く蓄積することが重要である。
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遺伝子組換え農作物の検知技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品分析研究領域    橘田 和美
 わが国で,遺伝子組換え技術を利用して開発された農産物が食品として利用され始めてすでに10年以上が経過している。 この間,遺伝子組換え農産物の産業利用についての社会的理解を得るために,2001年4月に新しい表示制度が導入された。 この表示制度の実効性を確保するための技術として,信頼性と実用性が高い遺伝子組換え体の検知技術の開発が求められてきた。 それに応える形で,食品総合研究所を中心としたグループにより,遺伝子組換え体の定性・定量検知法が開発された。また, そのうち6種類の遺伝子組換え農産物定量法については国際標準分析法として公表されている。
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遺伝子組換え農作物の生態影響とその解析技術
(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域    松尾 和人
 わが国でセイヨウナタネに代表されるナタネの栽培は極めて限られている。そのため,将来,組換えセイヨウナタネが導入されたとしても, その花粉飛散と交雑による影響を想定する際には,カナダや米国における大規模栽培地からの花粉飛散による事例をそのまま当てはめるのではなく, こぼれ落ち種子や逸出した個体など小規模集団からの花粉の飛散と自然交雑を想定する研究も合わせて行う必要がある。
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遺伝子組換え農作物の食品としての安全性評価技術
国立医薬品食品衛生研究所 機能性化学部    手島 玲子
 現在までに遺伝子組換え技術を応用して作出され,わが国で食品としての安全性審査を経た遺伝子組換え農作物の大部分は,害虫抵抗性や除草剤耐性などを賦与された第1世代の遺伝子組換え農作物である。 それらの遺伝子組換え農作物の食品としての安全性を評価するうえで必要とされる情報や評価の基本的考え方を概説し,今後の展望についても合わせて概説した。
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遺伝子組換え農作物に関する情報提供と国民理解の醸成に向けて
(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究推進室    田部井 豊
 遺伝子組換え農作物は,すでに日本の国土の約2.7倍もの面積で作付けされ,わが国にも約1,300万tも輸入されていると推定される。遺伝子組換え技術を理解するために, 現在までに行われている情報提供に関する活動を紹介する。しかし,遺伝子組換え農作物に対する国民の理解は高いとは言い難い。その原因として, 適切な情報提供や開発側や行政と消費者とのコミュニケーションが不十分であったとの批判もあるが,今後の国民の理解の醸成に向けた問題点などについて考える。
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自治体などの遺伝子組換え農作物栽培に対する規制の動向
NPO法人くらしとバイオプラザ21    佐々 義子
 厚生労働省は2007年1月,農林水産省で研究・開発を続けてきた花粉症緩和米を医薬品として扱うという最終判断を決定した。花粉症緩和米は, 消費者にメリットが見える日本発の遺伝子組換え植物として歩み始めるが,遺伝子組換え農作物栽培に対する自治体などの規制はこの門出にどんな影響を及ぼすのであろうか。 現在,9つの都道府県が遺伝子組換え農作物の交雑,混入防止を主な目的とする条例や指針を策定している。本稿では,遺伝子組換え農作物栽培の規制の特徴, 食の安全安心条例との関係,規制とは両輪として必要性が認められている情報提供やリスクコミュニケーションの実践の状況について報告する。
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