Vol.31No.10
【特 集】 家畜にやさしい飼養環境にむけて


5フリーダムスを保証する家畜管理技術
信州大学 農学部    竹田 謙一
 アニマルウェルフェアに関するさまざまな基準が世界的に策定され始めている。日本もそれらの基準に対応する必要がある。 しかし,アニマルウェルフェアへの理解はいまだ十分ではなく,生産現場,行政,研究者ともに誤解している点もあり,本稿ではその誤解を解きたい。 また,アニマルウェルフェアの基本原則である5フリーダムスを示すとともに,アニマルウェルフェアの定義を紹介する。 併せて,アニマルウェルフェアに関するEUでのプロジェクト研究,国内での飼養管理基準作成の動向を紹介する。
(キーワード:アニマルウェルフェア,快適性,家畜福祉,コンフォート,飼養管理基準)
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家畜たちは満腹か?
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    深澤 充
 アニマルウェルフェアのために推奨されている多くの規則で,「飢えや渇きからの開放」に類する項目は第1番目におかれている。 「飢え」には,食物が絶対的に少ない「栄養不足」の状態と数種類の栄養素が不足する「栄養不良」の状態がある。 「飢え」や「渇き」によって引き起こされるウェルフェアの問題は,欲求を満たされないことによるストレス,制限による疾病, 行動の制限に関連する行動的問題の3点が挙げられる。 それらの問題を解決するためには,施設・設備によるハード面や飼養管理によるソフト面からの環境的な改善策と遺伝育種的な改善策が考えられる。
(キーワード:飢え,渇き,栄養不足,栄養不良)
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免疫機能の視点から検証する疾病に強い飼養管理
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    石崎 宏
 近年,生産性を重視するあまり大規模・集約型の飼養環境に起因する日和見感染症,生産病,周産期病などが増加の一途をたどっている。 これらはストレスとの複合作用や飼養管理の不備に起因するケースが多い。 本稿では,飼養環境の変化が免疫機能に影響を及ぼす事例について紹介し,その対策や課題について検証する。 昨今,プロダクションメディスンなどの疾病予防技術や代謝プロファイルテスト所見を基軸とした健康診断や評価手法が浸透したが, 疾病予防の柱ともいえる生体防御機能について,その実用的な評価や,家畜福祉に立脚した健康診断はいまだ開発段階にある。 われわれは,新たな免疫指標として自然免疫を担うNK細胞に着目し,これが輸送環境中のストレスレベルを鋭敏に反映することを明らかにした。
(キーワード:家畜,免疫機能,飼養環境,化学発光能,サブポピュレーション,ナチュラルキラー細胞)
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不快環境からの自由を保証する飼養管理
麻布大学 獣医学部    植竹 勝治
 家畜の「不快環境からの自由」は飼育環境の改善,すなわち生活の質の向上を意図したものである。 そこには,主に収容施設や飼育管理設備といった物理的環境要因および暑熱といった温熱環境要因が含まれる。 また,福祉基準は,家畜のためだけにあるのではなく,生産性や衛生面も含めた家畜を飼育する人間の利益向上のためのものでもある。 本稿では,先進的な欧米の福祉基準を参照しながら,わが国における「不快環境からの自由」を保証するための要件 ならびに今後の研究の方向性について検討する。
(キーワード:牛,飼育環境,生活の質,福祉基準)
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家畜が正常行動を適切に実行できる舎飼環境
東北大学大学院 農学研究科    二宮 茂
 家畜の福祉に配慮した飼養管理方法の1つとして,家畜が正常行動を実行する自由を保障することが含まれる。 動物が行動するのは自らを取り巻く環境に適応し,生存するためであり,家畜が正常行動を適切に実行できることは家畜の飼養環境に対する適応能力 を向上させ,家畜が肉体的にも精神的にも健康な状態であることへ導く。 ここでは,まず,家畜の正常行動について述べ,次いで,家畜が正常行動を適切に実行できないという欲求不満状態で多く観察される行動について 解説した。最後に,ウシ,ブタ,ニワトリにおいて,正常行動を適切に実行できる舎飼環境に関する研究例や飼養管理方法を紹介した。
(キーワード:家畜,正常行動,動物福祉,環境エンリッチメント)
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アニマルウェルフェアにおける恐怖と苦悩
茨城大学 農学部    小針 大助
 恐怖や苦悩は精神的苦痛反応である。本来はストレスに対する適応的な反応であるが,そのストレスが過剰である場合, ウェルフェアを侵害する問題となる。恐怖や苦悩の問題は,近年,われわれ人間と関わりのあるさまざまな動物において大きくなりつつある。 動物の恐怖や苦悩は,動物の行動反応や生理的反応によりある程度評価することができることから,ウェルフェアの保障には, それらの科学的データを用いた動物の精神的苦痛に対する客観的な理解が必要である。 恐怖や苦悩の問題を解消する方法として,動物自身の遺伝的改良や環境エンリッチメント,管理者の接し方の改善などさまざまな方法がある。 以上を踏まえて,苦痛を感じる能力のある動物と,今後どのように接していけばよいのかを考えていく必要があるだろう。
(キーワード:アニマルウェルフェア,恐怖,苦悩,心理的ストレス)
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放牧飼育が家畜の福祉に及ぼす影響
北海道大学大学院 農学研究院    近藤 誠司
 放牧飼育が家畜に及ぼす影響について,乳牛,豚,鶏などの研究成果の概要を紹介する。 放牧乳牛では舎飼いに比べて歩行異常が有意に少なかった。 起立・伏臥動作において,放牧飼育に比べて舎飼い乳牛の動作はおよそ1から2秒遅く,行動パターンが妨げられていることが伺われた。 放牧豚では舎飼い豚に比べて行動学的および免疫学的に健全であることが示唆され,また放牧された鶏ではカニバリズムのリスクが低いことが示唆された。
(キーワード:放牧飼育,牛,歩行異常,行動パターン,豚,血漿中免疫グロブリン濃度,鶏,羽毛つつき行動)
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酪農現場における乳牛に配慮した飼養管理
酪農学園大学 酪農学部    森田 茂
 乳牛の飼養環境を評価し,改善するに当たって,乳牛の生物学的特徴に配慮する必要がある。 例えば,牛群で必要とする飼槽の数(スペース)は,その牛群の日内行動パターンを考慮して決定される。 また,乳牛の採食行動の特徴から,飼料は給与するだけでなく採食可能範囲内に配置されるように工夫しなければならない。 快適な休息環境には,起立・横臥動作のしやすさと横臥時の快適性がポイントになる。 このうち起立・横臥動作のしやすさをどの程度で折り合いをつけるかは,フリーストール牛舎や繋ぎ飼い牛舎といった収容方式によっても変化する。
(キーワード:乳牛採食行動,採食可能範囲,起立動作,牛床構造)
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採卵鶏の福祉ケージ
麻布大学 獣医学部    田中 智夫
 EUでは,バタリーケージは鶏の行動が制限され,動物福祉の観点から問題が大きいとして2011年末をもって禁止される。 しかし,フリーレンジなどの代替システムは,コスト面や衛生面などにおいてケージに比べて不利益な面も多い。 そこで,ケージの利点を生かしながら鶏の行動欲求を満たすシステムとして,巣箱や止まり木,砂浴び場などを設置した福祉ケージが開発された。 本稿では,福祉ケージの特徴やさらなる改良のポイントなどについて紹介する。
(キーワード:鶏,ケージ,動物福祉,正常行動)
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アニマルウェルフェアを向上するための現場評価法
帯広畜産大学 畜産学部    瀬尾 哲也
 アニマルウェルフェア(家畜福祉)を農家レベルで評価するシステムとして,EUを中心に総合評価法が提案されている。 さらに国内でもそのような国際的な動向に対応するため,日本型の評価法が研究され始めている。 本稿ではそれらの国内外現場評価法を紹介する。
(キーワード:家畜福祉,動物福祉,コンフォート)
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