Vol.32No.5
【特 集】 高齢化時代に向けた食の対応


高齢化時代と食
宮城大学食産業学部フードビジネス学科 (元(独)食品総合研究所)    津志田 藤二郎
 高齢者は若手に比べ,外観や体力に関する個人差が大きい。これには,個々人の遺伝的背景のみならず,それまでに過ごした生活環境の違いが大きな影響を与えている。 これまでの研究によると,がんの発症に関与する要因として食事が35%を占め,喫煙の30%を超えることが分かっている。 一生の間に約70トンも摂取すると言われる食料の選択や食べ方が,実は個人差の大きな原因になっている。 本稿では,食品のアンチエージング機能と関連付け,抗酸化性や免疫系の制御,ホルモン分泌制御に関与する食品成分について例示した。 また,健康に寄与する食品の摂取に当たっても,バランスの良い食べ方あるいは適量摂取が基本であることをビタミンとミネラルの摂取上限値を示して解説した。
(キーワード:アンチエージング,抗酸化成分,免疫系制御成分,ホルモン制御成分,食事バランス)
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食べる意欲と高齢者の栄養
東京都老人総合研究所    高橋 龍太郎
 高齢期にはさまざまな要因から栄養の維持が困難になる。慢性疾患とそれに伴う生活障害が代表的なものであるが,加齢が進むと食欲も衰えをみせ始める。 低栄養が出現すると,生活上の支障はさらに加速される。たとえ食が細くなったとしても,最期まで食べることの楽しさを味わえるような生活を支えていきたい。
(キーワード:食欲,低栄養,慢性疾患,加齢,体重減少)
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高齢者の味覚感受性と食物嗜好
日本大学短期学部    三橋 富子
 高齢者は味覚感受性が低下しており,塩化ナトリウム,ショ糖およびクエン酸溶液を若者に比べ,各々2倍,1.9倍,2.5倍の濃度でないと認知できなかった。 酸味は性差も認められ,高齢者男子は低下が著しかった。 食品嗜好は性差よりも年齢差の影響が大きく,若者は比較的新しい外来の甘味,酸味食品を好み,高齢者は従来から日本人に親しまれている甘味,塩味食品を好んでいた。 料理は和風を好み,脂質を多用したこってりとした料理は好まなくなっていた。 味覚感受性の低いことが,その味質の強い食品の嗜好につながることから,高齢者は幅広い食品を受容できると思われるが,薄味のおいしさがわかりにくくなる。
(キーワード:高齢者,味覚感受性,閾値,食品嗜好)
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健康寿命を延ばす食事
順天堂大学大学院 医学研究科     白澤 卓二
 長い高齢期を活動的に,そして生きがいのある人生を全うするためには,病気の治療や療養の期間をなるべく少なくして,いわゆる健康寿命を延伸することが肝心である。 そのためには高齢期の生活の質を下げてしまう糖尿病,高血圧,心筋梗塞,脳卒中などの生活習慣病,アルツハイマー病などの変性疾患,骨粗鬆症などの退行性疾患を予防することが重要である。 本稿では,これらの病気の予防のための食事法に関して,食材,調理法,必要な栄養素,食生活の方法などの観点から解説した。
(キーワード:予防医学,生活習慣病,抗酸化物質,カロリー制限,メタボリックシンドローム)
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食を通した高齢者の免疫老化の総合管理
(独)国立健康・栄養研究所    饗場 直美
 高齢期で健康を保持するためには,免疫能を維持することが重要であると考えられている。 免疫能と食事の関連性については,たんぱく質−エネルギー栄養障害(protein―energy malnutrition:PEM)時に免疫低下が見られるように,密接な関係が認められている。 加齢に伴う免疫老化のメカニズムの一つとして,生体内酸化ストレスによる胸腺萎縮が考えられていることから,低下している生体内抗酸化能を補助するためには, 体外から抗酸化物質を摂取し,生体内の抗酸化能を保持・増強することが重要であると考えられる。 バランスのとれた食事を過不足なく摂取し,免疫能保持に有効である食品を適宜摂取することが,高齢期における免疫能保持に有効であると考えられる。
(キーワード:食品,栄養,免疫,高齢者,抗酸化)
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食事による高齢者の脳機能の健全性維持
静岡県立大学食品栄養科学部 グローバルCOE    横越 英彦・源川 博久
 加齢に伴い,脳機能の低下を反映した様々な神経性の変調が言われており,特に認知症を伴うアルツハイマー病やパーキンソン病は深刻である。 そうならないための予防医学的な観点から,健全な脳機能を維持するための食事の重要性について注目した。 まず,脳も身体内の一つの臓器であるため,全ての栄養素は脳のエネルギー源としてだけでなく,構成成分や生理機能性成分の合成素材などとして必要である。 そこで,各栄要素と脳機能との関わりをとりあげた。 また,脳機能に関係している食品成分が明らかにされており,今回は,緑茶成分でもあるテアニンとγ―アミノ酪酸(GABA)についての知見を紹介した。
(キーワード:高齢者の栄養,脳機能と栄養,栄養素不足と脳疾患,テアニン,γ―アミノ酪酸)
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魚を中心とした日本型食生活と高齢者の健康
女子栄養大学 食品生産科学研究室    鈴木 平光
 我国は,人口の高齢化が急速に進行し,高齢社会とも,超高齢化社会とも言われている。 この超高齢化とともに,欧米に多い動脈硬化,心臓病,糖尿病,認知症やガンなどの生活習慣病が増加しつつある。 疫学研究により,これらの疾患は食生活と関係が深いことが知られている。 欧米人の食生活と日本人の食生活を比較すると,日本人では摂取カロリーや脂肪の摂取量が少ないだけではなく,特に魚介類の摂取が多い。 魚介類には,畜肉にほとんど含まれていないDHAなどの栄養成分が豊富であり,欧米型の生活習慣病の予防に役立つことから, 魚を中心とした日本型食生活は高齢者の健康を維持増進する切り札となることが期待されている。
(キーワード:魚介類,日本型食生活,DHA,高齢化,健康)
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高齢化に対応した食品の咀嚼・テクスチャー研究
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    神山 かおる
 高齢者向け食品では,対象者の咀嚼能力に合わせて食べやすくテクスチャーを制御することが必要である。 一口大が食べやすいだけでなく,栄養が不足しがちな高齢者が食べる場合は,エネルギー当たりの咀嚼量が低く抑えられていることが肝要である。 ここでは,米飯と刻んだ食品の咀嚼の量および咀嚼特性値と機器測定による物性値との関連についての研究を紹介する。 また,2009年4月改訂の厚生労働省「えん下困難者用食品」の,物性測定法の問題点についても述べる。
(キーワード:食品物性,ヒト計測,えん下困難者用食品)
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