Vol.32No.9
【特 集】 農林業が生み出すバイオエタノール


バイオマスからのエタノール生産の展望
東京大学大学院 農学生命科学研究科    横山 伸也
 本章ではまず,バイオマスからのエタノール生産の世界的な状況,主なバイオエタノール生産国である米国とブラジルでの,最近のエタノール増産に伴う影響について述べる。次いで,食糧と競合しないセル ロース系バイオマスからエタノール生産を生産する際の技術的な課題,わが国におけるバイオエタノール生産の展望を示す。さらに現在,国際的な課題になっているバイオ燃料生産と土地利用変化についての問 題点を紹介する。
(キーワード:バイオエタノール,セルロース,エネルギー収支,土地利用変化,GHG削減)
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イネのバイオエタノール化と日本の農業
−「イネイネ・日本」プロジェクト−
東京大学大学院 農学生命科学研究科    森田 茂紀
 地球温暖化対策や石油枯渇対策としてバイオエタノールの生産と利用が急速に進んでいるが,食料との競合や,環境負荷の増大が問題となり,セルロース系原料の利用へと世界が動いている。日本はバ イオエタノールを農業問題として捉えるべきであり,休耕田でエネルギー作物としてのイネを栽培して,デンプン系のコメとセルロース系のワラ・籾殻をホールクロップ利用すれば,高いポテンシャルを生かせる。コメ や稲ワラを利用したバイオエタノール化の実証プラントが,すでに動き出している。東京大学が立ち上げた「イネイネ・日本」プロジェクトは,これらと連携しながら,イネのバイオエタノール化を通じた持続的社会の 構築を目指している。
(キーワード:バイオエタノール,イネ,休耕田,農村振興)
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森林資源のバイオエタノール変換技術
(独)産業技術総合研究所 バイオマス研究センター    遠藤 貴士・澤山 茂樹
 木質バイオマスから酵素糖化−発酵プロセスにより高効率にバイオエタノールを製造するため,湿式メカノケミカル処理によって木材をナノサイズの微細繊維に解す前処理技術を開発した。水熱処理との複 合処理により,種々の樹種においても高い酵素糖化性を発揮させることができた。この木質前処理物について,糸状菌の生産する糖化酵素で,グルコースなどの単糖を得ることができる。オンサト酵素生産法で, 低コストでの酵素処理技術を目指している。広葉樹については,グルコースの次に五炭糖キシロースが多く得られるので,遺伝子組換え酵母による六炭糖・五炭糖同時発酵の研究を行っている。
(キーワード;バイオエタノール,メカノケミカル処理,水熱処理,酵素糖化,発酵)
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オイルパーム伐採古木トランク(幹)からのエタノール生産技術
(独)国際農林水産業研究センター 利用加工領域    森  隆
 オイルパームは生産性を維持するために,約25年ごとに伐採・更新され,その際大量のトランク(幹)が排出される。われわれは,オイルパーム伐採古木中にグルコースなどの糖を含む樹液が大量に存在 し,熟成によりサトウキビに匹敵する高濃度に達することを見出した。この知見に基づき搾汁システムの開発など,オイルパーム伐採古木からのエタノール生産技術開発を行っている。本技術は,マレーシア及びイ ンドネシアにおいて大量の廃棄物として排出されるオイルパーム伐採古木から年間数百万kL規模のエタノール生産を可能にするものであり,日本にとってもCDM事業又は近距離から輸入可能な代替エネルギーの 開発につながる重要技術と考えられる。
(キーワード:オイルパーム,古木,樹液,糖,エタノール)
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草本系原料からの国産バイオエタノール製造研究
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    徳安  健
 農林水産省委託プロジェクト「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発」では,主要な農産廃棄物である稲わら,麦わらや,資源作物としてのサトウキビ,ソルガム,バレイショ,カンショおよびテン サイを原料としたバイオエタノール製造技術の開発を行っている。特に,セルロースを主成分とする繊維質の変換技術は,食料・飼料生産との競合を避けるために不可欠となることから,重点的に研究開発を進め ているところである。著者らは,これら7種類の原料に対応した変換技術を4種類に絞り込み,その中でも,でん粉やスクロースを主成分とする易分解性糖質を含む稲わらのシンプルな変換技術が,地域活性化に 向けた革新技術に繋がるものと強く期待する。
(キーワード:バイオエタノール,変換技術,稲わら,セルロース,易分解性糖質)
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日本古来の発酵技術でバイオエタノール生産
(独)農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域    北本 宏子・堀田 光生
 地球環境に優しいバイオマスエタノールを製造する際に,原料からエタノール変換効率を高める試みでは,エネルギーをたくさん消費したり,廃棄物が生産されるという問題がある。一方,日本では,高温多 湿な微生物が活動しやすい気候で,バイオマスを貯蔵し付加価値をつけるために,漬け物や酒造りが営まれてきた。また,最近は,休耕田の活用と自給飼料増産のために稲発酵粗飼料の生産が促進されている 。われわれは収穫直後にバイオマスが含む水分と栄養分を発酵に利用する「固体発酵」で、農業地域において自給できるエネルギーと飼料を生産する方法の開発に取り組んでいる。
(キーワード:固体発酵,稲発酵粗飼料,セルラーゼ)
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担子菌とソルガムを用いた
連結バイオプロセスによるエタノール変換技術開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    金子 哲
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター    我有 満
 地球温暖化対策や石油依存型社会脱却のため,バイオ燃料の製造・利用に注目が集まっている。食料と競合しないリグノセルロースからのエタノール製造が望まれているが,製造コストが嵩む点が問題で あり,安価なエタノール製造へ向け,連結バイオプロセス(CBP)の開発が期待されている。リグノセルロースの分解能に優れ,エタノール発酵能も有する担子菌類はCBPに適した微生物と考えられるため,著者ら はエノキタケを用いたCBPの開発を行っている。バイオ燃料用資源作物として期待が持たれるソルガムを原料としてCBPを試みたところ,ソルガムの品種特性とエノキタケのエタノール変換特性の関係が浮き彫りに なり,今後,目指すべき方向性が明確になった。
(キーワード:バイオエタノール,連結バイオプロセス(Consolidated Bioprocessing;CBP),エノキタケ,ソルガム)
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