Vol.33No.1
【特 集】 地域が誇る農の逸品2010


高温耐性でおいしい福岡のコメ新品種「元気つくし」
福岡県農業総合試験場 農産部    浜地 勇次
 近年,地球温暖化により,水稲の登熟期間における気温が高まる傾向にある。このため,九州の水稲は主要品種「ヒノヒカリ」を中心に,白未熟粒(乳白米,背白米,基白米などの総称)の多発などによって玄米品質や収量が低下し,深刻な問題となっている。そこで,当場では,水田 に35℃の温水掛け流しを行って気温を上昇させる施設(高温耐性評価施設)を用いて,育種材料の高温登熟性を評価した。この評価法によって,水稲の出穂期〜同20日後における穂付近の平均気温が27℃を超える高温条件下でも白未熟粒の発生が少なく,高温登熟性が"強"で,食味が「ヒノヒカリ」より明らかに優れる新品種「元気つくし」を育成した。
(キーワード:水稲,育種,高温耐性品種,高温登熟性,温暖化,良食味)
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白いごはんが大好きな人にお届けします、山形生まれの「つや姫」
山形県農業研究センター水田農業試験場    結城 和博
 「つや姫」は,本県で育成された初めての"晩生"に属する粳種で,「コシヒカリ」に比べて短稈で耐倒伏性に優れ,収量性は「コシヒカリ」以上である。玄米は光沢があり,白未熟粒が少なく高品質である。炊飯米の光沢・外観・味が優れ,「コシヒカリ」以上の良食味である。山形県における適応地帯は平坦部で,本県のさらなる良食味米の安定生産と"米どころ山形"として県産米全体の評価向上を目指し,2009年に山形県の水稲奨励品種に採用された。全国的な作付拡大を図り,おいしい米として全国の消費者に評価されるブランド米を目指す。
(キーワード:高品質米,良食味,「つや姫」,耐倒伏性)
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あきたりんご4姉妹「秋田紅あかり」「秋しずく」「ゆめあかり」「秋田紅ほっぺ」
秋田県農林水産技術センター 果樹試験場天王分場    上田 仁悦
 「ふじ」に偏ったリンゴの品種構成を是正し,生産者の所得向上とリンゴ産業の活性化を図るため,秋田県では個性豊かなリンゴ4品種を育成した。「秋田紅あかり」は大玉で果点が目立ち,濃厚な甘さを示す中晩生種である。「秋しずく」は果汁が極めて多く,ニホンナシのような食感を示す中晩生種である。「ゆめあかり」は微酸系の食味で外観が優れ,栽培が容易な豊産性の中生種である。「秋田紅ほっぺ」は甘酸適和で,食味バランスが優れる早生種である。オリジナル品種のシリーズ化は産地間競争を優位に進めるブランド化の第1歩である。
(キーワード:りんご,オリジナル品種,シリーズ化)
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いしかわの戦略作物・赤系巨大粒ブドウ新品種「ルビーロマン」
石川県農業総合研究センター 砂丘地農業試験場    中野 眞一
 「ルビーロマン」は石川県農業総合研究センターが育成し,2007年3月に品種登録された赤系大粒ブドウ品種である。育成地における雨よけ施設栽培での成熟期は「巨峰」よりやや遅い9月上〜中旬,粒の大きさはほかのブドウ品種と比べても目を見張るものがある。味も甘くてジューシーであり,石川県の戦略作物として,近い将来,首都圏市場へも出荷を計画しており,当センターとしても品質,商品化率向上のための研究に全力を注いでいる。
(キーワード:ブドウ,「ルビーロマン」,戦略作物)
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輝くカンキツ「湘南ゴールド」
神奈川県農業技術センター 企画調整部    片木 新作
 神奈川県は古くからのカンキツ産地であるが,全国的なウンシュウミカンの生産過剰が続いて生産農家の経営が悪化している。そこで産地活性化のため,神奈川らしい新たなカンキツの育種に取り組み,小果ながら鮮やかな黄色でさわやかな香りを持つ「湘南ゴールド」を育成した。4〜5月に優れた食味となる晩生品種で,栽培面積の拡大と生産量の増加を図っている。また生食のほか,農商工連携のキーとして果皮の特徴的な香りなどを利用したスイーツやフルーツビールへの応用も進んでいる。
(キーワード:カンキツ,新品種,「湘南ゴールド」)
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大分ナシの新品種「豊里」
大分県農林水産研究センター 果樹研究所    加来 靖英
 大分県で育成された「豊里(ほうり)」は,10月中下旬に収穫ができ,糖度が高く,酸度も高いことから濃厚な食味の赤ナシである。また,貯蔵性が高く,ポリ袋に密封した場合,常温で2カ月程度の貯蔵が可能である。
(キーワード:ニホンナシ,新品種,「豊里」,良食味)
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和歌山のスターチス新品種と低コスト省力種苗生産
和歌山県農林水産総合技術センター暖地園芸センター    小川 大輔
 和歌山県は全国一のスターチス生産地であるが,生産現場では萎凋細菌病の発生や高額な種苗費が問題となっている。そこで,和歌山県では萎凋細菌病抵抗性品種など,オリジナル品種4品種を育成し,問題の解決に当たってきた。また,組織培養業者に種苗生産を委託することで,安価な幼苗を生産者に供給する体制を確立した。さらに,県内の組織培養業者と共同で,育苗の手間を減らし,より価格も安い「低コスト省力培養苗」を生産する技術を開発した。
(キーワード:スターチス,組織培養,低コスト,省力,種苗生産)
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フランネルフラワー「フェアリーホワイト」:岐阜県オリジナル品種
岐阜県農業技術センター 花き部    木村 裕子
 鉢花業界における価格低迷,産地間競争の激化が進むなか,岐阜県では他産地との差別化を図るため,オリジナル品種(オンリーワン品種)の育成に取り組み,フランネルフラワー「フェアリーホワイト」を育成した。「フェアリーホワイト」は,草丈が20〜30cmのわい性で,四季咲き性を有しており,鉢花として適している。またその草姿,質感とも新規性が高く,消費者の購買意欲を高められるため,当県オリジナルブランドとして生産・販売することで,栽培農家の活性化を期待できる。
(キーワード:フランネルフラワー,鉢花,四季咲き性)
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山梨県オリジナル夏秋どりイチゴ新品種「かいサマー」
山梨県総合農業技術センター 高冷地野菜・花き振興センター    加藤 成二
 山梨県総合農業技術センターでは,夏秋どりイチゴの新品種「かいサマー」を育成した。県内で栽培される夏秋どりイチゴ品種「エラン」は,盛夏期でも連続して収穫できるものの,酸味が強いことと種浮き果が発生しやすいなどの欠点があることから,品質の優れたオリジナル品種の育成が強く望まれていた。そこで,盛夏期にも連続収穫可能で良食味な夏秋どり新品種「かいサマー」を育成するとともに新品種に適した栽培方法を確立した。
(キーワード:イチゴ,夏秋どり,安定収穫,良食味)
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いばらきメロンの新品種「イバラキング」
茨城県農業総合センター 生物工学研究所    宮城 慎
 茨城県内のメロン半促成栽培に適応した新品種「イバラキング」を育成した。「イバラキング」は,果実の小玉果や糖度不足により品質低下しやすい4月下旬から5月収穫の作型において,果実肥大性が優れ,糖度は高く,さわやかな甘さと滑らかな肉質で食味が良い。また日持ち性が良く,果肉のうるみが少なく肉質が安定している。今後,県オリジナル品種として普及を進め,"いばらきメロン"のブランド力向上を目指す。
(キーワード:メロン,育種,新品種,果実肥大性,良食味)
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埼玉の地産地消ブランド牛乳”うしのちち”
埼玉県農業総合研究センター 畜産研究所    吉野 賢一
 国産飼料である飼料イネ(稲発酵粗飼料)を中心とした地場産飼料を給与して生産される牛乳の付加価値を解明しブランド化を図るため,パネラーによる分析型食味評価,消費者を対象とした食味アンケートおよび牛乳に対する購買意識等の調査を行った。また,その結果に基づく販売マーケティング戦略を練り上げ,地元酪農業協同組合と連携して,地産地消シンボルマーク入り牛乳"うしのちち"として製品化を図り,学校給食への供給やJA直売所などでの販売により産地特定ブランド牛乳として定着させた。
(キーワード:"うしのちち",牛乳,地場産飼料,地産地消)
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但馬牛、歴代最高の脂肪交雑を誇る種雄牛「丸宮土井」
兵庫県立農林水産技術総合センター 畜産技術センター    野田 昌伸
 兵庫県では但馬牛の改良の主役を担う種雄牛を農林水産技術総合センターで一括管理している。「丸宮土井」はその産子の枝肉成績から遺伝的産肉能力を評価する現場後代検定で驚異的な成績をあげ,特に脂肪交雑(霜降り度合い)は歴代の種雄牛の中で最高レベルに評価され,平成21年度から基幹種雄牛として供用開始した。その特徴ある血統構成と抜群の産肉能力は但馬牛の将来に明るい希望を持たせてくれる逸材である。
(キーワード:但馬牛,種雄牛,脂肪交雑,「丸宮土井」)
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地域特産魚ヤシオマスによる栃木県の元気アップ!
栃木県水産試験場 水産技術部    渡邊 長生
 現在,栃木県では利用が伸び悩んでいたヤシオマスのブランド化を推進している。問題となっているかび臭の原因を飼育池中に繁茂するOscillatoria属藻類由来の2―MIBであることを突き止め,2―MIBを含まない清水2週間飼育による脱臭法を開発した。また,輸入サケ・マス類との差別化を行うため,鮮度を長時間維持することができる水揚げ方法の検討を行った。その結果,即殺し15分間の脱血後5℃で貯蔵することにより「活き」の状態を24時間維持できた。かび臭がなく「生で高鮮度」という品質を備えたヤシオマスを消費者に届けることにより,養殖生産者やヤシオマスを利用する飲食・観光業界の活性化に挑戦している。
(キーワード:ヤシオマス,鮮度,活き,かび臭,2―MIB)
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駿河湾深層水でアカザエビの養殖に成功
静岡県水産技術研究所 利用普及部    吉川 昌之
 清浄性と低水温性の特長を持つ駿河湾深層水を用いて,高級食材であるアカザエビの養殖技術の開発を目指した。まず,抱卵親エビの飼育に対する深層水の効果を検討した結果,深層水で飼育すると表層水に比べて2倍の幼生を確保できる可能性が示された。次に,初期成長過程を観察した結果,アカザエビにはゾエア幼生期が存在しないことが分かった。幼生および稚エビ期を,「カプセルによる飼育方法」と「新しい個別飼育装置」を考案して飼育した結果,日齢800日の生残率は27.3%,平均甲長は36.1mmとなり,最小商品サイズである40mm以上の個体も出現した。さらに「引き出し式飼育装置」を考案し,幼エビの養成ならびに成エビの蓄養を可能にした。
(キーワード:アカザエビ,養殖,蓄養,海洋深層水,個別飼育装置)
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