Vol.33No.8
【特 集】 農林水産業の温暖化対応


温暖化が水稲に及ぼす影響とその対応
(独)農業環境技術研究所    長谷川 利拡
 1980年以降の約30年間の急激な温度上昇によって,気候変動は将来の問題という認識から現在起こりつつある問題という認識に変わりつつある。水稲分野でどのような問題が生じ始めているか,将来どのような問題が生じ得るかを検証し,適応の方策を講じることが重要な課題となってきた。本稿では,これまでの気温変化の特徴,水稲の作況・品質の趨勢を振り返るとともに,現在発生している問題,将来起こり得る問題,それらへの対応と今後の研究展望について述べる。
(キーワード:気候変動,品質低下,高温障害,登熟障害,不稔)
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小麦作への温暖化の影響と対策技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    中園  江
 温暖化が日本の小麦の生産に及ぼす影響については未解明な点が多く,水稲ですでに行われている気候変動シナリオに基づいた収量予測が求められている。過去の作況データの解析から,近年の気温の上昇によりすでに作期の短縮が全国的に起きていることが明らかになった。さらに気温が上昇した場合には,温暖地の品種では茎立期が大幅に前進し凍霜害のリスクが高まるため,秋播性程度の高い品種の導入が有望な適応策である。また収量を予測するには,降水量の多い日本の栽培条件に適合した作物モデルの開発が必要となる。
(キーワード:小麦,温暖化,作期,気象災害,作物モデル)
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温暖化が葉菜類の生育に及ぼす影響の定量的評価
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所    岡田 邦彦
 野菜における温暖化影響評価は,品目・品種・作型が多種多様であるため,非常に多くのマンパワーを要する一方,主穀類に比べるとはるかに少ない面積で需要量の生産が可能,果樹のように新稙から収穫まで数年要したりしないため,温暖化は,産地が北上するだけのことと考えられがちで,欧米でも研究が進んでいない。しかし,日本では厳しい消費ニーズに対応して周年供給体制を構築するために多種多様な作型が開発されていることから,野菜についても温暖化影響評価は重要である。そこで,キャベツ・レタス・ホウレンソウについて,1次生産力に対する個体・群落温暖化影響評価モデルの開発,および全国レベルでのマクロな温暖化影響評価モデルの開発について概説した。
(キーワード:地球温暖化,影響評価モデル,キャベツ,レタス,ホウレンソウ)
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果樹への温暖化の影響と対応
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所    杉浦 俊彦
 温暖化の果樹への影響について,過去の栽培記録を整理することにより,開花期の前進や着色の遅延,果実の軟化などを統計的に示した。対策技術として,ブドウの高温着色性のよい品種,植調剤による浮皮防止,晩霜害や自発休眠覚醒不良対応技術などを開発した。
(キーワード:浮皮,着色不良,休眠覚醒不良,晩霜害)
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家畜生産への温暖化影響予測と対応
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    野中 最子
 家畜は,乳や肉,卵を生産する際に大量の熱を発生するが,飼育環境の温度や湿度が高まると,体内で産生された熱を上手く放散できずに採食量が落ち,生産性が低下する。そのため,今後,温暖化が進んだ場合に家畜の生産性に大きな影響が生じることが予測される。そこで,本稿では家畜・家禽における暑熱下での生理的応答の特徴,生産性に関する影響評価の概要を紹介し,さらに現在進められている新しい栄養管理や畜舎管理等の暑熱対策研究について述べる。
(キーワード:温暖化,家畜,生産量・品質,影響評価,暑熱対策)
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森林分野における地球温暖化の影響と対策技術
(独)森林総合研究所    松本 光朗
 森林は温暖化の影響を受けながら,その一方で森林によるCO2吸収と木材利用による排出削減を通して温暖化緩和に貢献する。わが国の森林による吸収量の総量は少しずつ低下しているが,京都議定書の目標達成に利用できる吸収量は毎年増加し,2008年には1,180万炭素トン/年(90年比3.4%)に達した。森林炭素循環モデルによれば,中長期的にスギ林による吸収量は高齢化により低下していくことが予測され,木材利用に係わるモデルにより,木材振興策をとれば2050年時で1990年比2%の排出削減が予測された。現在,国際的には森林減少・劣化を防ぐREDD+が議論されており,途上国における森林炭素量変化の観測手法の開発が求められている。
(キーワード:森林,吸収,木材利用,シミュレーション,REDD+)
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水産分野における温暖化対策研究
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所    中田 薫
 (独)水産総合研究センターは,温暖化対策研究の効率的推進のために2008年7月に「地球温暖化対策研究戦略」を策定した。これに則って実施している温暖化緩和技術と適応技術に関する研究・開発の最近の動向を紹介した。水産分野の緩和技術として重要な漁船の省エネ技術の研究を進め,漁船の燃油消費量の見積もり手法を構築するとともに「エネルギー消費の見える化」のための技術開発を行っている。また,漁場探索に関わるエネルギー消費の軽減に役立つ海況予測モデルの開発と実運用を行っている。適応技術に関する研究は多岐に及ぶが,近年の成果を例に,対象とする生物の生理・生態特性を把握することが重要であることを示した。
(キーワード:地球温暖化,水産分野,緩和技術,適応技術)
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