Vol.2 No.8
【特 集】 新たな育種技術の開発と実用化に向けて


特集の内容と目的
農林水産技術会議事務局    鈴木 富男
←Vol.2インデックスページに戻る

新しい育種技術をめぐる海外諸国における政策動向
茨城大学    立川 雅司
 新しい育種技術(New Breeding Techniques)は,これまでのゲノム研究の蓄積を活用するものとして,近年国際的に注目を集めているものの,その規制上の取り扱いに関しては,国際的にも検討途上にある。本稿では,主にEU とアメリカ,ニュージーランドにおけるNBTをめぐる規制上の検討状況について概観する。特に,ニュージーランドでは,ゲノム編集技術の規制をめぐって裁判で争われた。高等裁判所による判決から今後の検討課題について示唆を得る。
(キーワード:NBT,海外動向,ニュージーランド高裁判決)
←Vol.2インデックスページに戻る

欧州における新たな育種技術の開発の動向
(独)農業生物資源研究所    田部井 豊
 NBTの技術開発の現状を調査するために,ワーゲニンゲン大学と民間企業2社(Keygene社とRijk Zwaan社)を訪問した。ワーゲニンゲン大学では,シスジェネシスを用いてリンゴ黒星病抵抗性リンゴや赤い果肉のリンゴ,疫病耐性のジャガイモの開発と野外試験を行っていた。Keygene社は,オリゴヌクレオチド指定突然変異導入技術(ODM)により除草剤耐性ペチュニア等を開発し,Rijk Zwaan社は逆育種で染色体ごとの特性を育種に利用することを進めていた。いずれの訪問先でも,外来の導入遺伝子が残らない技術で開発された植物をGM植物から除外することを望んでいた。
(キーワード:NBT,シスジェネシス,ODM,逆育種,null segregant)
←Vol.2インデックスページに戻る

米国におけるゲノム編集技術の研究開発動向
(独)農業生物資源研究所    雑賀 啓明
 2013年12月に米国にある研究開発機関等を訪問し,新たな植物育種技術(NBT)の一つであるゲノム編集技術に関する研究開発動向について意見を聴取した。ゲノム編集技術のツールとなる人工制限酵素の研究を行っているベンチャー企業と大学からは,人工制限酵素の特徴やゲノム編集の応用例などについて紹介を受けた。また,大手バイテク企業数社を訪問し,ゲノム編集技術に関する意見や社内での取り組みについて意見を聴取した。いずれの企業においても,科学的知見に基づいた規制は必要であるが,過度の規制は避けるべきだとの意見であり,ゲノム編集技術を育種の効率化や正確さを高める画期的な技術として期待していることが分かった。
(キーワード:ゲノム編集,人工制限酵素,分子育種)
←Vol.2インデックスページに戻る

国内での新しい育種技術の開発概要
(独)農業生物資源研究所    土岐 精一
 欧州委員会ジョイントリサーチセンターが2011年に,新しい植物育種技術として8種の技術をリストアップした。それらの技術はまとめてNBT(New Plant Breeding Techniques)と呼ばれ,今後の食糧増産や環境保全への活用が期待されている。本稿では,NBT技術の中でも注目されている,ゲノム上の標的遺伝子を改変するゲノム編集技術と,標的遺伝子の塩基配列を変えずに発現を制御するエピゲノム編集技術について,国内における研究開発状況について紹介したい。
(キーワード:NBT,ゲノム編集,エピゲノム編集)
←Vol.2インデックスページに戻る

自殖性作物における高効率循環選抜育種法の開発に向けて
(独)農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所    田中 淳一
 イネやコムギ等の自殖性作物の収量の伸びの鈍化が指摘される中,トウモロコシ育種は「循環選抜」と呼ばれる方法でF1品種の親の改良を進め,成果を上げている。著者らの研究グループは,自殖性作物においても効率的な循環選抜を可能にするために,マーカー形質によりネガティブ/ポジティブ選抜可能な優性の雄性不稔系統を組換え技術によって作出・利用し,TMS循環選抜として実現することを目指している。ここでは,TMS循環選抜の目的と方法論について紹介するとともに,組換え体の法的規制との関係等についても紹介する。
(キーワード:自殖性作物,TMS循環選抜,雄性不稔)
←Vol.2インデックスページに戻る

植物RNAウイルスベクターを利用した植物の新育種技術
岩手大学    吉川 信幸・山岸 紀子・今 辰哉
 リンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)は各種作物,野菜・花き類から木本の果樹類まで広い植物種に感染し,ほとんどの宿主植物に無害な潜在性ウイルスである。ALSVゲノムを改変して構築したALSVベクターは,一過的な外来遺伝子の発現や内在性遺伝子の発現抑制に利用できる。ALSVは植物ゲノムに取り込まれることはなく,また感染個体から得られた次世代植物のほとんどに移行しないため,ALSVベクター技術を利用して植物の機能を改変しても,その子孫は遺伝子組換え植物には相当しない。本稿では,ALSVベクターの特徴と植物への導入(接種)法,ALSVベクターを利用した植物の開花および世代促進,ALSV感染による宿主DNAのメチル化とその子孫への遺伝,次世代個体がウイルスフリーであることの検証について紹介する。
(キーワード:ALSVベクター,開花促進,VITGS,DNAメチル化,次世代植物)
←Vol.2インデックスページに戻る