Vol.2 No.11
【特 集】 鳥獣害の生態と鳥獣害対策技術


イノシシの生態と農業被害対策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    仲谷 淳
 イノシシは各地で生息域を拡大し,大きな被害を出している。農業被害対策では,「個体数調整」,「被害防除」,「環境管理」を基本に,多くの対策手法が開発されている。それぞれの対策を最適化するとともに,3 分野の関連性を考慮した総合的対策が重要となる。地域の実情と将来像を考え,人口減少・高齢化社会に見合った「農業のあり方」や「農家の幸せ」を探る獣害対策が求められている。
(キーワード:イノシシ,生態,被害対策,最適化,予防的対策)
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ニホンジカによる農林業被害
(独)森林総合研究所    堀野 眞一
 ニホンジカは多種類の植物を大量に食べ,繁殖力が高く,高密度になりうるなどの性質があるため,甚大な農林業被害を起こし,自然植生にも過大な影響を及ぼす動物である。防除技術は各種あるが,決定打はまだない。比較的効果の高いと考えられる柵にも,費用やメンテナンスの負担などの課題がある。被害多発地域での対策も必要だが,これから分布拡大すると予測される地域での予防的対策も重要である。
(キーワード:反芻獣,分布域拡大,防除技術,個体群管理,自然植生への影響,予防的対策)
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サル被害対策の成功実例と群れ管理の考え方
三重県農業研究所    山端 直人
 サルによる農業被害が深刻な問題となっており,一部では都市問題となっている例もみられる。被害対策のためには,誘引物となる餌資源の削減や周辺の環境整備,適切な追い払いや防護柵,そして,群れの状況に応じた適切な頭数管理が必要である。三重県農業研究所では,被害対策のための集落育成を社会実験的に実施し,適切な追い払いや防護柵整備により,群れの遊動域を変化させ,農業被害や群れの加害レベルを低下させる効果検証を行なっている。一方で,追い払いなどの被害管理が困難なレベルの多頭群が多数存在し,これらの群れに対しては継続的なモニタリングの下で計画的な頭数の削減が必要となってくる。そのための技術開発も進んでおり,サル被害の軽減のためには,被害管理と個体数管理を計画的かつ総合的に実施することが重要である。
(キーワード:ニホンザル,被害管理,個体数管理,特定鳥獣管理計画)
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鳥類の生態と被害対策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    吉田 保志子
 鳥による農業被害は,果樹と野菜で多く発生する。現場では鳥をおどかして追い払う方法がよく使われるが,慣れが生じるため効果に持続性がない。鳥は移動能力や繁殖力が高いため,捕獲による被害対策は効果が低い。確実に被害を防ぐためには,物理的に鳥の侵入を防止する必要があるが,大がかりな防鳥網は資材費や維持管理が問題になり,設置をためらう場合が多い。そこで,低樹高の果樹および果菜類に防鳥網を手軽に掛け外しする「防鳥網の簡易設置技術」,テグスと防鳥網を組み合わせた果樹園へのカラス侵入抑制技術「くぐれんテグス君」などの,簡易で有効な物理的対策技術の開発に取り組んでいる。
(キーワード:鳥害,農作物被害,物理的な侵入防止,防鳥網,テグス)
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カワウの生態に基づいた水産被害軽減技術
(独)水産総合研究センター 増養殖研究所    坪井 潤一
 大型の魚食性鳥類カワウによる被害は,川,湖,海に生息する魚,つまり水の中の「無主物」を食べられる被害であるため,被害の定量化は難しい。しかし,作物が獣に食べられる農業被害と同様に,被害に苦しめられている水産関係者が存在するのも事実である。本稿ではカワウの生態に基づいた①個体数モニタリング,②個体群管理,③被害発生場所での飛来防除対策について,最新技術とともに紹介する。
(キーワード:カワウ,水産被害,漁業被害,個体群管理,個体数管理)
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鳥獣害対策におけるGISの活用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    百瀬 浩
 鳥獣害対策において,情報の利活用は大きな武器となる可能性がある。本稿では,GIS(地理情報システム)を活用した,わかりやすい情報共有の手法について解説する。まず,GISについて簡単に解説した上で,GISの鳥獣害対策における活用事例として,地理的な分析によるイノシシ被害発生リスクマップの作成と,イノシシの分布拡大予測シミュレーションの研究について述べる。また,GISを情報共有のツールとして活用するシステムの開発についても紹介したい。
(キーワード:鳥獣害対策,野生動物,地理情報システム,被害予測)
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