Vol.3 No.7
【特 集】 マツタケ栽培技術の開発を目指して


マツタケ栽培研究の展望
森林総合研究所    根田 仁
 マツタケは,日本を代表する食用きのこである。いまだに栽培技術が開発されておらず,野生で発生したものを利用してきたが,発生量が激減してきており,海外からの輸入量が増大している。マツタケは生きているマツの根に菌根を形成して共生する生態をとるため,シイタケのような木材腐朽菌のような人工培地上での栽培には成功していない。これまで,日本のマツタケ栽培研究は,人工培地による栽培,菌根苗を利用した栽培,マツ林の管理による増産について試みられてきた。近年さらに新しい技術が開発され,栽培の実現の可能性が高まっている。
(キーワード: マツタケ,菌根,食用きのこ,栽培)
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マツタケのゲノム解読とその人工栽培への利用
森林総合研究所     宮崎 安将
 きのこ類は林業総生産の半分以上を占め,その関連産業は日本の農村地域の生活を支える重要な分野である。より効率的な育種による品種開発を行うためには,生物の遺伝情報を収集することが有用である。森林総合研究所では2014年,近年実用化された「次世代シーケンサー」を利用して,コスト等の面で従来困難であったマツタケのゲノム解読を行い,データベースを公開した。本データベースは,マツタケが持つほぼすべての遺伝情報を網羅しており,人工栽培に向けた育種やマツタケが持つ生理学的側面の理解に役立つ。本稿では,マツタケゲノム解読および菌根形成に働く遺伝子と,それらの利活用について概説する。
(キーワード:マツタケ人工栽培,ゲノム解読,菌根特異的遺伝子,ForestGEN(森林総合研究所森林生物遺伝子データベース))
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マツタケが利用する栄養分
大阪府立大学     楠田 瑞穂
 マツタケは生育に必要な養分分解酵素が極めて弱いか,欠如しているため,宿主植物に菌根を形成し,菌根を通じて宿主から養分をもらい受けて生長すると考えられてきた。しかし,近年の研究で,弱いながらも複数の糖質分解酵素を生産し,腐生的な一面も有することが明らかになった。そこでどのような酵素を機能させればマツタケ菌の菌糸体が順調に生育し,子実体の発生につながるのか,生育基質供給の面からマツタケの人工栽培の可能性を探る。
(キーワード:外生菌根性きのこ,マツタケ菌,糖質,糖質分解酵素,人工栽培)
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マツタケ菌糸の成長促進物質
岡山県農林水産総合センター森林研究所    藤原 直哉
 根粒菌の研究を参考に,培地に数種のフラボノイドを添加して,マツタケの培養試験を行ったところ,ナリンゲニンに,菌糸の顕著な成長促進効果を認めた。この効果は,マツタケのミトコンドリアの活性化によるものと思われ,実際に,アカマツの根にナリンゲニンが含まれていることも分かった。これらのことから,マツタケは,宿主植物の根に含まれるフラボノイドを,感染シグナルとして感知していると考えることができた。そこで,森林への応用技術を模索している。また,宿主の重要性が再認識されたことから,マツタケの生産者と協力しながら,管理労力の省力化を目的とした,集約的なアカマツ林の育成に取り組んでいる。
(キーワード:アカマツ,コロニー,フラボノイド,感染シグナル,マツタケ)
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マツタケ感染苗の作製
森林総合研究所     村田 仁
 マツタケ人工栽培の研究は100年以上行われてきたが,いまだに成功していない。マツタケは,生きているマツ科樹種の根に菌根と呼ばれる共生器官を形成することで林地に生育しているが,同様の条件を人工的に作り出すことができなかった。しかし,21世紀に入り,無菌的にアカマツの実生苗にマツタケの培養菌糸を接種して菌根を形成させ,シロと呼ばれるマツタケの根圏集落を作製することが可能になった。さらに,実験室内で,マツタケが,マツ科以外の樹種とも根と相互作用し,シロを作ることが明らかになった。このようなマツタケ感染苗の作製方法を概説するとともに,感染苗が今後マツタケの栽培化にどのように発展していくかを考察した。
(キーワード:アカマツ,オオシマザクラ,菌根,シラカンバ,セドロ,マツタケ)
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菌根性きのことしてのマツタケの生態
信州大学     山田 明義
 マツタケの生態は古くから研究がなされ,100年余り前から菌根菌として認知されてきた。しかし,胞子の発芽から菌根形成を経てシロ(後述する「コロニー」)を発達させる過程はいまだに不明である。その一方で,マツタケが宿主植物と形成する外生菌根については,特にアカマツ実生を用いた実験により基本的な性質が解明され,人工的なシロを作出する実用研究へと展開を見せている。マツタケの自然界における挙動解明と人工シロの活用を併せることにより,マツタケ山の新たな造成も可能になると期待される。
(キーワード:外生菌根,シロ,共生,菌根合成,菌根性食用きのこ)
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長野県のマツタケ発生の特徴とマツタケ山の管理
長野県林業総合センター    増野 和彦
 長野県は2006(平成18)年から2013(平成25)年まで連続して全国一のマツタケ生産県となった。これは,意欲的な生産者や関係団体の連携の成果でもある。マツタケ増産に向けて,意欲的な生産者と団体,行政が連携して「まつたけ生産振興協議会」を設立し,試験研究の推進と情報の共有を図ってきた。全国・長野県のマツタケ生産の動向,長野県のアカマツ林やマツタケ山の特徴とともに,マツタケ関係者が一体となった取り組みの概要を紹介する。
(キーワード:マツタケ,長野県,マツ林,環境整備施業)
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