Vol.3 No.10
【特 集】 北海道農業の将来を支える技術開発


北海道農業の将来像を支える農業研究開発の方向性
農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター    勝田 眞澄
 我が国の食料・農業・農村を巡る状況は,社会構造や国際情勢の変化による大きな転換点の中にあり,北海道においても今後10年間に農家の急速な減少や農地集積などによる経営基盤の拡大等の大きな変革が予測されている。広大な土地資源や,日照時間が長い寒地特有の気候での立地による生産性の高い大規模農業を特徴とする北海道において,地域性や特有の生産基盤を背景に想定される農業の将来像を概観するとともに,将来の北海道農業を支える技術として期待される研究成果を紹介する。
(キーワード:大規模営農,畑作,酪農,水田作)
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「北海道水田農業ビジョン」北海道水田作の目指す方向
北海道農業協同組合中央会    伊藤 謙二
 米生産調整の見直しなど米政策の方向性が大きく変わりつつある中,北海道水田農業が目指すべき将来方向と取り組みについて,生産者や関係者が共有を図り,一体となって取り組むための指針として,2014年11月「北海道水田ビジョン」を策定した。
 本ビジョンでは,生産,販売,品種・技術等にかかわる戦略を示しており,このうち技術開発については,今後想定される経営規模の一層の拡大とコスト低減等に対応するため,GPSを中心とするICTの活用のほか,直播や疎植による春作業を軽減する水稲栽培技術の導入・拡大の必要性を示した。
(キーワード:ビジョン,戦略,労働力不足,低コスト・省力化)
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北海道における水稲乾田直播栽培の苗立ち安定化技術
農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター    林 怜史
 北海道の水稲乾田直播栽培では,地下灌漑の利用によって乾籾播種でも安定的な苗立ちが得られる。種子のある地表面が乾燥し始めたら再入水し,大雨で湛水した場合は排水することで,乾燥状態や湛水状態にならないようにする。直播に適した品種「ほしまる」は,播種から出穂晩限までに簡易有効積算気温1,100℃を確保できる地域で乾籾播種が可能である。目標収量500kg/10aを得るには,総籾数23,000〜24,000粒/m2,苗立ち本数150本/m2が必要である。
(キーワード:イネ,集中管理孔,水田輪作,地下水位制御,FOEAS)
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メッシュ農業気象データに基づく栽培支援情報の提供
農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター    根本 学
 予報データを含む「メッシュ農業気象データ」と既存の成果情報を組み合わせ,地下かんがいシステムを利用した乾田直播水稲・小麦・大豆栽培向けの水管理支援情報を発信するシステムを構築し,実証試験を行っている。日降水量の翌日以降の予報値については,平年値を使用した場合よりも誤差が大きくなるなど量的精度は良くないが,1週間以内の10mm以上の降水量の有無など,指標の作り方によっては有効な栽培支援情報を提供できる可能性を示した。
(キーワード:メッシュデータ,乾田直播,栽培安定性,予測情報,情報システム)
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「十勝農業ビジョン2016」における大規模畑作の将来像と
期待される技術開発の方向性
十勝農業協同組合連合会     小池 寿
 「十勝農業ビジョン2016」では,規模拡大が進むなか農作業支援のもと生産性向上と省力化により競争力を強化し,安全・安心で高品質な農産物の安定供給に努め,販売力の強化と高付加価値化を追求している大規模畑作の将来像を示している。この実現のためには,温暖化による単収・品質の低下,労働力不足が問題となっていて,期待される試験研究の方向性は,温暖化と省力化に対応する品種開発や技術開発が重点的なテーマである。併せて,今後さらに必要性が高まると予想される輸出と高付加価値化に関する調査研究が求められている。
(キーワード:大規模畑作,温暖化,省力化,輸出,高付加価値化)
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生育センサーによる大規模畑作の施肥管理
北海道立総合研究機構 十勝農業試験場     原 圭祐
 大規模畑作地帯では1筆の圃場面積が数ヘクタールとなり,土壌や生育のバラツキが顕在化している。施肥量の適正化や生産の安定化を図るために,土壌診断や生育診断が活用されているが,既往の診断技術 は圃場内のバラツキには対応していない。本稿では,国産で初めて市販化したトラクタ搭載型の生育センサーとその出力値に基づいて施肥量を自動調整する可変施肥システムについて解説するとともに,秋まき小麦を 対象にした実規模での実証試験により得られた増収効果や品質の平準化効果について紹介する。
(キーワード:生育センサー,可変施肥,秋まき小麦,収量,窒素収穫指数)
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寒地における飼料生産部門協業による畑地型酪農営農モデル
農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター    須藤 賢司
 今後10年間,北海道酪農においては担い手の減少と規模拡大が継続するものと予測され,この傾向を踏まえた技術体系の構築が必要である。そこで,北海道の十勝・網走地方および道南の平坦地等を対象に, 土地利用の共同化,自給濃厚飼料生産と自給粗飼料の収量・品質向上等を特徴とする飼料生産受託組織(TMRセンター)ならびに組織を構成する家族酪農経営(経営面積72ha/戸,経産牛頭数100頭/戸)10戸規模の 営農モデルを構築した。また,所得や生産費の水準を線形計画法により試算した。
(キーワード:営農モデル,協業,自給濃厚飼料,TMRセンター,酪農)
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規模拡大を目指した搾乳ロボット利用技術
北海道立総合研究機構 根釧農業試験場    堂腰 顕
 国内における搾乳ロボットの導入目的は規模拡大であり,省力化を目的とするヨーロッパと異なる。搾乳ロボット導入には牛の乳頭・乳房形状,牛舎施設,飼料給与方法などに導入条件が存在するため,事前の準 備が不可欠である。搾乳ロボットの牛舎レイアウトは特別な通行方式を採用する必要はなく,十分に休息でき,歩行しやすい環境をととのえることが重要である。導入後は,肢蹄管理や周産期管理など牛の健康管理に重 点をおくことが成功のポイントとなる。
(キーワード:搾乳ロボット,導入条件,フリーストール牛舎,飼養管理,酪農)
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