Vol.3 No.12
【特 集】 農産物や食品のおいしさに関する研究の最前線


おいしさにかかわる多様な因子とその評価方法
農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    日下部 裕子
 食物のおいしさには五感すべてが関与している。おいしさにかかわる因子は末梢感覚で受け取られるが,そのまま伝達されるのではない。刺激を受容する受容体レベルでの相互作用がまず存在する。また,複数の味の相互作用といった同じ感覚内で起こる相互作用もあれば,味覚と嗅覚といった複数の感覚の相互作用も存在しており,受容した刺激は脳で知覚するまでの各段階で変化することが明らかになってきた。また,食品に含まれる化学物質の測定方法や,生体での化学物質の受容を模したり再現したりすることで,味や香りを評価する方法が発展してきたので,併せて紹介する。
(キーワード:おいしさ,五感,受容体,相互作用,センサー)
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味覚センサ
九州大学大学院 システム情報科学研究院     都甲 潔
九州大学 味覚・嗅覚センサ研究開発センター
 味覚は化学物質を舌や口腔内にある味細胞の生体膜で受容して生じる感覚である。味覚センサは,脂質と高分子を混合して作った脂質/高分子膜を味物質の受容部分とし,五基本味(酸味,苦味,塩味,甘味,うま味)と渋味を数値化することができる。センサの定義する「味の物差し」を用い,測定サンプルの味の相対評価ではなく絶対評価を与える。すでに市販されており,全世界で約400台もの味覚センサが食品や医薬品メーカーで利活用されている。ここでは,味覚センサの原理と応用を紹介する。
(キーワード:味の物差し,食譜,味の数値化,味の可視化,味覚センサ)
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加熱方式が「おいしさ」へ与える影響について
大阪ガス株式会社 ビジネス開発部     藤本 祐子
 同じ材料や調理方法であっても,「おいしさ」に違いが生じるといわれている。しかし,「おいしさ」の評価は人それぞれであるため,その評価を定量的に把握することは難しいとされてきた。今回,大根の煮物調理において,官能評価と味覚センサーなど三つの物理化学分析の併用により,ガス調理器による大根煮物はIH調理器のものに比べ,有意差をもって「おいしい」という結果となった。また,「おいしさ」を「味」「硬さ」「色」の3要素に分けた官能評価結果と物理化学分析結果が一致したため,加熱方式が「おいしさ」に影響を与えることが分かった。
(キーワード:おいしさ,加熱方式,煮物,官能評価,味覚センサー)
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寒天ゲルからのフレーバーリリースと
アガロースゲル中における香気成分MAS―NMRによる探索
同志社女子大学     山田 恭正
 柑橘系の香気成分を添加した寒天ゲルを破壊した時のフレーバーリリースをGCMSで分析した。その結果,d―リモネンなど疎水性の炭化水素系テルペンは,リリース量が多かったが,ゲル中に含有量が少なかったエステルの方がむしろリリース率が高かった。また,アルデヒド基を有するシトラール(ゲラニアールとネラールの混合物)は特にリリース率が低かった。そこで,柑橘類の特徴的な香気成分とゲルの相互作用を調べるために,香気成分を添加したアガロースゲルのNMRスペクトルの測定を試みた。
(キーワード:フレーバーリリース,アロマリリース,寒天ゲル,アガロースゲル,MAS―NMR)
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人間の視覚情報処理と食
農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    和田 有史
 食品の二次機能にかかわる人間の感覚として味覚,嗅覚,触覚が対象として研究が重ねられてきた。しかし,視覚も食の認識に多大な影響を与えることは,日常的な経験から,だれもが実感していることだろう。近年は,視覚に基づく食品の認知についての科学知見も心理学を中心に集積されつつある。本小論では,視覚による食認知について,著者らの研究を中心に色,質感,学習の効果を中心に概観する。
(キーワード:視覚・感覚間相互作用・色・鮮度・輝度ヒストグラム)
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食肉のおいしさとそれを引き出す「こく」とは!
日本獣医生命科学大学     西村 敏英
 食肉は,美味な食品の一つであり,老若男女を問わず多くの人に食されている。食肉は,一般的に,適度に軟らかく,ジューシーであると同時に,うま味が強くて,加熱で生じる動物種の特徴ある香りと肉様の香りが感じられる食肉が好まれる。このようなおいしさは,と殺直後の筋肉には認められず,筋肉を一定期間低温で貯蔵する熟成処理によりもたらされることはよく知られている。最近,食べ物のおいしさに寄与する要因として,「こく」の重要性がわかってきた。本稿では,食べ物のおいしさに寄与する「こく」を解説すると同時に,食肉のおいしさにおける「こく」とは何かを解説する。
(キーワード:食肉,おいしさ,こく,うま味物質,脂質)
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地域ブランドを創出するおいしさ(品質)評価−神奈川県の事例−
神奈川県農業技術センター     吉田 誠
 地域の在来種や特徴ある新品種が国内各地で農産物需要拡大や地産地消のアイテムとしてブランド化されている。神奈川では,消費者を引きつける力を持ったブランド農産物の創出のため,品質評価と新品種 育成とをセットにした取り組みを実施してきた。なかでも近年育成したナス新品種‘サラダ紫’は生食用という特徴を物理化学的評価により,また,トマト新品種‘湘南ポモロン’は生食調理兼用という特徴を成分特性評価によりそれぞれ特徴付けし,ブランド化を進めた。
(キーワード:ナス,トマト,品質評価,品種育成)
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