Vol.4 No.4
【特 集】 第11回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績


気候変動と魚種交替をつなぐ生物学的メカニズム
水産総合研究センター 中央水産研究所    高須賀 明典
 カタクチイワシとマイワシの間で優占魚種が入れ替わる「魚種交替」現象は気候変動に起因する。しかし,環境変動に魚がどのように反応して魚種交替に至るかという生物学的メカニズムには不明な点が多い。本研究では,初期生活史における成長や産卵の環境に対する応答特性を中心に,独自の視点から魚種交替の生物学的メカニズムの解明に取り組んだ。魚種間での水温特性の違いに着目した「成長速度最適水温」仮説の提唱,太平洋を越えた異なる海流域間での産卵特性の比較などにより,環境に対する応答は海流域ごとに魚種特有であることを示した。
(キーワード:魚種交替,気候変動,初期生活史,成長速度,産卵)
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分光イメージングによる食品の品質評価技術の開発と実用化
農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    蔦 瑞樹
 農産物や食品の品質および安全性を担保する社会ニーズが高まっており,迅速に検査可能な近赤外分光法による光センシング技術が注目されているが,糖度の測定など,対象とする農産物や成分が限られており,一部の選果場などにおける活用に留まっている。そこで,従来の光センシング技術では困難とされていた農産物の原産地判別や微生物汚染の迅速検出を可能とするために,膨大な情報量を特徴とする蛍光指紋およびそれを画像計測に拡張する分光イメージング手法の開発に挑戦した。さらに,実用化に向けて計測の簡易・迅速化手法を新たに考案したほか,一連の技術を応用した「もち米の胴割れ透視器」が市販されている。
(キーワード:蛍光指紋,多変量解析,可視化,簡易・迅速計測)
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森林内放射性セシウムの時空間変動モデリング
森林総合研究所     橋本 昌司
 福島第一原子力発電所事故により汚染された地域の約7割が森林である。本研究では,観測データ,地理情報(GIS),モデルを用いて,森林内の放射性セシウム(セシウム134,137)の動態を広域で長期予測した。その結果,事故後に森林に降り注いだ放射性セシウムは,事故後数年でその大部分が土壌へ移行していくこと,主に半減期の短いセシウム134の自然崩壊により,放射性セシウムの量は時間とともに減少していくが,汚染度の高い地域では土壌に蓄積する放射性セシウムの量が多い状態が続くことなどがシミュレーションにより明らかとなった。汚染された森林の対策を考えていく上で重要な情報を提供した。
(キーワード:福島,森林,放射性セシウム,モデル,予測)
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植木類輸出促進に向けた病害虫の防除手法開発
千葉県農林総合研究センター     山田(武田) 藍
 植木・盆栽類は,最近海外で人気が高まり,輸出量が急激に増加している。一方,植物寄生性線虫やケブカトラカミキリなど,新たな病害虫による輸出・生産の阻害事例が多発し,対策が求められている。本研究では,輸出検疫で問題となる植物寄生性線虫について,輸出前に処理することで高い防除効果が得られる薬剤処理技術を実用化した。また,イヌマキの害虫ケブカトラカミキリについて,防除適期となる成虫発生時期の推定手法を確立し,インターネット上のアメダスデータを利用した防除支援システムを作成・公開した。
(キーワード:植木,輸出,オオハリセンチュウ,ケブカトラカミキリ)
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主要花きの老化機構の解明と品種保持技術の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所     湯本 弘子
 トルコギキョウ,リンドウおよびダリアは日本国内で育種が進み,優れた品種が多数育成されている。消費者は日持ちの良い切り花を購入したいと考えていることから,これらの切り花が今後も生産,需要ともに増加するためには日持ちを向上させる必要がある。本研究では,トルコギキョウ,リンドウおよびダリアの老化機構の解明と品質保持技術の開発を行い,産地および流通現場における品質保持剤の利用による日持ちの向上に貢献した。
(キーワード:トルコギキョウ,リンドウ,ダリア,エチレン,サイトカイニン)
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