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第15回

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働きバチ
幼虫から分泌物を口移しでもらうスズメバチの働きバチ


ヴァーム
M社から発売されたスポーツ栄養飲料「ヴァーム(VAAM)」

ハチからの贈り物「ヴァーム」



 日本での有害動物による死亡例は、スズメバチ類が年間30〜50人で、群を抜いて第1位です。しかし、 一般的にハチ類と人間との関係は、害虫の天敵や農作物の花粉媒介者として益虫として位置付けられています。 また、前に紹介しましたように東洋地区では幼虫や蛹が食用資源として重要な存在ですし、 ミツバチは世界でもっとも古くから人類に利用されてきた甘味資源でもあります。そして近年、 分析技術の進歩はハチの副産物に新たな利用の道を開こうとしています。

 ミツバチの女王の幼虫の食べ物として有名なローヤルゼリーは、消化効率が抜群なことから近年高級な栄養剤として利用されています。 もっともその効果は経験的な側面が大きく、科学的には未知の部分が多く残されています。それでも現在その利用は日本が世界一で、 年間300トンを超えています。

 また、近年話題のプロポリス(蜂ヤニ)は、植物が芽などに防衛物質として生成した物質で、 働きバチがこれを集めて巣板の補強や修理などに利用している膠状の物質です。フラボノイドを多く含み、 近年健康食品として話題を集めています。利用法は消毒・消炎・点眼剤、やけど用スプレー、化粧品、 食品添加など多彩で、とくに最近はその抗がん作用まで注目されています。

 こうした中で、最近M社でスポーツ栄養飲料として開発され、ヒット商品となった「ヴァーム(VAAM)」 は「ヴェスパ・アミノアシッド・ミクスチャー(スズメバチのアミノ酸混合剤)」の頭文字から命名されたものです。

 スズメバチ類は大変どう猛な昆虫で、働きバチは猛スピードで長距離を飛び、いろいろな昆虫を襲って肉だんごにして巣に持ち帰ります。 しかし、これはすべて幼虫にえさとして与え、働きバチ自身は幼虫が唾液腺から分泌する液体をえさにし、幼虫と働き蜂の間には ”ギブ・アンド・テーク”の関係が成立しています。

 この液体は人の乳とよく似た組成で、とくにアミノ酸の組み合わせには独自のものがあります。M社は働きバチに強力なスタミナを与えるこの 「流動食」に注目し、同じアミノ酸組成をコピーして開発したのが「ヴァーム」です。最近、テレビでマラソンの高橋尚子選手が 「ヴァーム」を飲むCMが放映されていますので、ご存じの方もあるかと思います。

 いささか宣伝めきますが、昆虫の産業的利用に多大の関心を寄せているぼくとしても、この夢多き新商品のますますの発展を期待したいと思います。