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続タサデイ

 1970年代のはじめころ、ミンダナオ島の密林で、文明と隔絶したまま原始時代から今日まで洞窟に住み、棒をこすって火を起こし、石器を使い、 弓矢や槍さえ知らない「タサデイ」という少数民族が発見され、世界的な話題を呼んだが、結局それは捏造事件であった……という話を以前この欄で紹介した(No.83) 。 今回はその続報である。

 先日、世界の大ウソを集めたあるテレビ番組で、偶然この「タサデイ(テレビではタサダイ)族」の事件も紹介されているのを見た。 大筋は前回ぼくが紹介したとおりであったが、これを仕込んだのはマルコス政権下のエリザルデという大臣で、ほとんどこの人物一人の仕業だったらしい。 彼は、何人かの現地人を買収して裸にして洞窟に住まわせた上でマスコミに紹介した。しかし、その後は保護・保全の名目で現地を封印する一方、 政府は毎年そのための予算を計上し続けた。それは1986年、マルコス政権の崩壊によって終わるが、エリザルデ大臣は貯め込んだ12億円を持っていち早く亡命したという。 マスコミが再び"現地"に入ったとき、そこにはオートバイを乗り回す「タサデイ族」の姿があった。と、まあこういうわけである。

 してやったりというエリザルデの声が聞こえそうだが、こんな話が通用してしまったことの方がむしろ「タサデイ」よりも現代の奇跡である。 彼は度胸以上に才覚もあったのであろう。べつに感心しているわけではないが……。

[研究ジャーナル,27巻・7号(2004)]



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