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黄銅の蝉のマッチ入れ

(フランス)


 なお、腹面に「GUIRAUDO」と刻字があるが、まるで意味がわからず、今回はこれを”見なかったこと”にするつもりであった。 が、思いついてフランス文学者で虫仲間の岡本大三郎氏にお伺いを立て、これが作者の名で、語尾から南仏のアヴィニョン付近に多いイタリア系のフランス人らしいことがわかった。 さすがにさすがである。
 どんなものでも百年経てば宝になるというが、さほどの芸術品とも思えないこの蝉も、百年という年月ゆえに腹が立つほど高価で、 しばし採集を逡巡したほどの「私費真鍮の虫」であった。ぼくの無価値で雑多なコレクションも、あとわずか1世紀の辛抱である。
 この黄銅(真鍮)の蝉は1999年の秋、東京の丸善で開催された小規模ながら高級な骨董市で採集したものである。 フランスはアールヌーボー期のもので、翅が上に開き腹部がマッチ入れになっている(写真)。これが作られたのもまた南仏のセミ好き(シリーズNo.22参照)の財産であろう。全長11.5cm。



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