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橘(たちばな)



 「橘は 実さえ花さえその葉さえ 枝に霜降れど いや常葉の樹 万葉集」

 わが国に野生している唯一のかんきつである。小果実で黄色で酸味が強く食用にはならない。万葉集には萩、梅についで66種も登場し、その多くは花橘として、初夏のふくいくたる香りを放つ花が題材になっているようだ。古事記によると、垂仁天皇の御代に田道間守(たじまもり)が勅命を受けて常世の国に不老長寿の霊薬を求めて旅し、苦節十年、非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)を持ち帰った。それが橘であるという。昔の教科書にあった有名な話である。田道間守公は和歌山県下津町の橘本神社に橘菓祖神として祀られており、2000年10月には1930年祭が盛大に行われる。

 本種は万葉時代には奈良、京都にも多く見られたようで、代々の天皇が即位する紫宸殿を建てたとき、敷地内に生えていた橘と桜の大木を切り惜しみ、 これを表階段の左右に位置するように設計した。これが右近の橘、左近の桜伝説である。昭和12年に文化勲章の図柄として、橘が採用されている。 これは文化現象には永劫性がなければならないので、常世の国に永劫の力を求めた公のいわれを重んじられた陛下ご自身のお申し出だと入江相政氏は書いておられる。 橘の野生は今では伊豆半島以西の海岸線に見られる。私は室戸岬と宮崎県の石波海岸に見たが、少なくなっている。 ちなみに和歌浦の万葉館には橘3本が元気に来館者の応対の役目を果たしている。




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